Menu

まずはファンになってもらうこと。“負け組”三幸製菓が見出した、究極の新卒採用方法とは

お菓子を作り続けること54年。これまで「雪の宿」や「チーズアーモンド」といったヒット商品を世に送り出してきた三幸製菓。「♪いっこでも〜にこにこ三幸のあられ・おせんべい」というキャッチフレーズが耳に残っている人も多いだろう。

そんな同社が仕掛ける採用活動が、ユニークで面白い。「おせんべいが好き?」、「ニイガタで働ける?」という2つの質問に答え、メールアドレスを入力するだけで即エントリーというから驚きだ。

採用活用の事例 日本一短いエントリーシートの前の2つの質問

ナビサイトにお金を払って行う採用活動が一般的な中、なぜユニークなユーザー体験を提供する採用活動を始めたのか?そして、この採用活動によって“新卒”という毎年入れ替わる顧客をいかに短期間で”ファン”へと育成していったのか?

三幸製菓の採用活動を手掛ける人事部の本間聡子さんに、この取り組みの裏側について話を伺ってきました。

応募者数=内定者数という理想を目指して

— 採用活動といえば、ナビサイトに求人広告を出して……という形が一般的です。なぜこのような採用活動を始めたのでしょうか?

本間 私たちも大手の採用サイトに求人広告を出して説明会をする、いわゆる一般的な採用活動はやってきました。当時は会社の拡大期だったこともあり、エントリー数の多さが一つの指標になっていたんです。

実際、毎年1万人くらいからエントリーがありましたが、弊社の採用人数は10名〜15名。エントリーしてもらったにもかかわらず、ほとんどの人をお断りしなければならない……。

そんな採用活動は本当に正しいのか。少し疑問に感じる部分があり、当時の上司が旗振り役となり、13卒の採用活動から方針を変えることになったんです。

出典:三幸製菓 登壇カンファレンス資料

— 具体的にはどのように変えていったんでしょうか?

本間 まずナビサイトの活用を止めました。私としては本当に採用できるかどうか不安もあり、「そのやり方は無理です」と言って反対していたんです。ただ、上司から「これ以上正しくないことをやりたくない」と言われ、確かにその通りだな……と。

いたずらにエントリー数を増やすのではなく、心から三幸製菓に入社したいと思っている人にアプローチかけた方がお互いに無駄がないですし、効率的。極端な話をすると、「応募者数=内定者数」が一番幸せな形だと思うんです。

— そこから少しずつやり方を変え、現在の採用方法になったと。ちなみに「おせんべいが好き?」、「ニイガタで働ける?」という2つの質問を設けた意図はなんでしょうか?

本間 学生にとって製菓メーカーは人気業界の一つなのですが、その人気はおせんべいに限った話ではない。製菓メーカーだからとりあえずエントリーしてみた結果、勤務地が新潟だと思っていなかった人もいるなど、意図せぬところでミスマッチが起きていたんです。

ただ、弊社はどれだけ頑張っても事業内容はお菓子の製造・販売ですし、本社は新潟。これだけは変えられない部分なので、そこを理解してもらえなければ弊社とは合わない。

それをエントリー前に判断できたらいいと思い、弊社をエントリーするにあたって最も大切な2つの質問を設けました。

選考フローは応募者の希望ごとにデザインする

— その後の選考フローはどのようになっているんですか?

本間 質問に答えてもらった後は、メールアドレスを入力し、オリジナルの適性検査を受けてもらいます。そこを通過した人は、適正結果にもとづいて振り分けられた8つの選考フローに沿って、実際に選考を受けてもらうといった感じです。

カフェテリアプランのように様々な選考コースが用意されているのがカフェテリア採用

–個人情報を聞くよりも先に適正を見ると。

本間 学歴や住所などを聞くよりも前に、会社との合う、合わないが明確になった方がお互いに良いじゃないですか。適性検査を受けた段階でお断りをする人もいます。

あとエントリーシートを読むのはすごく大変。それにも関わらず、内容を読んでも正直、人となりはわからない……。書いている側の時間ももったいないので、エントリーシートの提出を義務化せず、最初に適正を見るようにしています。

— この採用方法にしてから、社内外に何か変化はありましたか?

本間 「採用活動が面白い」と言ってもらえるようになりましたね。私たちが目指していることは、会社をたくさんの人に知ってもらうこと。多くの人が三幸製菓を知っていて、受ける・受けないの判断を自分でできるようにすることで、「この会社は面白いけど自分には合わないから受けない」という状態が作れる。これが理想的な採用の形だと思うので、そこを目指していきたいですね。

社内の変化でいうと、徒労感がなくなりました。これまでは落ちる人への連絡にかなり時間を割いていたのですが、採用方法を変えてからは、必要なことに時間を割けられるようになり、かなり前向きに仕事に取り組めるようになりました。

— 各フローごとに選考内容を設計するのは大変じゃないですか?

本間 締め切りなども違うので大変な部分はあるのですが、経営層からは「自由にやっていいよ」と言われているので、選考内容を考えるのは楽しいです。

もちろん、やってみてダメだったものもたくさんあるんですけど、やらないことには何もわからない。一昨年は17コースあったのですが、昨年は8コースに減らすなど試行錯誤を繰り返しながら、内容をブラッシュアップしていっています。

イベントの参加者が後輩を連れてくる。ブランドの構築によって生まれた正のスパイラル

–採用活動の難しい部分は昨年の情報を引き継げないことにあると思っています。結局は毎年新しい顧客を相手にしなければならない。そこは何か工夫をしているのでしょうか?

本間 三幸製菓はもちろんですが、まずはおせんべいにもっと関心を持ってもらいたい。そんな思いから、人事が主体となって「おせんべいミートアップ」というイベントを継続的に開催するようになりました。

内容は、おせんべいを焼いてみたり、おせんべいの雑学を知ったり……というものですが良い効果も生まれていて。前年の参加者が後輩を連れてきてくれるんです。

— おぉ!情報が引き継がれていってるんですね。

本間 弊社は競合と比べると、やっぱり知名度が低い会社なんですよ。単年のアプローチで終わってしまうだけではダメ。もっと長期的な視点に立って就活生にアプローチをかけていくことがブランドイメージや認知度向上につながると思い、イベント開催することにしたんです。

知名度が低いとできることは限られてしまうと思いがちですが、知名度が低いからこそブランドイメージを植え付けやすい。こうしたイベントを定期的に開催していくことで、少しずつイメージを変えていけるんじゃないかと思っています。

— 就活生との関係を構築するために、どのようなメッセージを伝えていますか?

本間 マイナスなことも伝えるようにしています。そうすることで、より会社の情報をリアルに感じてくれると思いますし、誠実さも伝わると思っています。

あと、これからの時代は一つの会社で働き続けることが当たり前ではなくなりますが、最初に入る会社はその人のキャリアに大きな影響を与える。だからこそ、真剣に選んだ方がいいと伝えています。

— 最後に、今後手掛けてみたいがあったら教えてください。

本間 入社して1年目の先輩ってかなり大きな存在じゃないですか。今後は適正をもとに最初の配属先の上長を決められるようにしたいですね。

あと、現在8つの選考コースがありますが、今後は4コースに絞り、内容のブラッシュアップに注力していきたいと思います。

— ユニークなユーザー体験を提供している理由がよく分かりました。お忙しい中、お時間をいただき、ありがとうございました!

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なる場合があります。ご了承ください。

関連情報

PageTop
PageTop