早期の集客目標クリアにつながったSNS・広告活用。竹中工務店のBtoCイベントマーケティングの挑戦を戦略から実行までサポート
写真右より
長島 潤也
シナジーマーケティング株式会社 クラウド事業部 第6アカウントソリューショングループ マネージャー
上山 藍
シナジーマーケティング株式会社 クラウド事業部 第1デジタルマーケティンググループ コンサルタント/ディレクター
田附 岳夫 氏
株式会社竹中工務店 経営企画室 広報部長
※部署名・役職は取材当時(2025年5月)のものです
竹中工務店が、2025年2月に大阪で開催した「たてものめがね まちめがね展」は、BtoB企業の当社としては新しい挑戦となる一般向け体験型イベントでした。
従来のBtoBの展示会とは異なるBtoCマーケティングに関して、シナジーマーケティングが戦略立案から実行まで包括的に支援しました。短期間での認知拡大を実現したデジタルマーケティング施策の詳細を竹中工務店の田附様とともに振り返ります。
建設業界の認知度を回復させる一般向けイベントへの挑戦
長島 今回、一般向けイベントを開催することとなった背景からお聞かせください。
田附氏 建設業界全体で、特に20代以下の若い世代で社会的認知度が低下していることが大きな課題となっています。マスコミなどが行った調査では、業界のみならず私たち竹中工務店を含めて大手5社の認知度は軒並み右肩下がりとなっており、人材確保という点でも懸念があります。
社会にモノや情報があふれることで、相対的に建物への関心度が低くなってきたのが一因だと受け止めています。ただ、そんな背景でも大型商業施設や交通インフラの開業、リニューアルなどが話題となることは少なくありません。とはいえ、「どんな施設にどんな店舗が入っているか」は気になっても、誰が設計して、施工したのかといった点はあまり注目されないようです。
上山 確かにそうですよね。今回、一緒にお仕事をさせていただく中で、御社の実績には改めて驚かされました。誰もが知る高層ビルや大型商業施設、スタジアム、空港……と、社会や生活そのものを支えていますよね。
田附氏 そういっていただけることは多いですが、竣工後は施主さまの所有となるので「私たちが作りました」と声高に言うのも難しいのが実情です。こうした広報活動の難しさも影響しているため、一般の方々にとっては当社が「身近」とは言えない存在になっていたのかもしれません。
長島 そういう背景があったからこそ、「一般の方向けのイベントを開催」という機運が高まったのでしょうか。
田附氏 そうですね。当社はこれまで定期的にさまざまなイベントを行ってきましたが、そのほとんどが取引先企業を対象としたBtoB型の展示会でした。しかし、幅広く一般の方々が建物やまちづくりに興味を持ってもらわなければ、建設業界に良い人材が集まらなくなってしまいます。そこで経営判断として、BtoC型のイベントを実施することが決定しました。
ターゲットは、大きく分けて2種類に設定しました。まずファミリー層を誘致し、特にお子さんたちの建築・建設に対する興味づけのきっかけとすること。そして、2つ目はリクルーティングです。建築系の学生に建築業界や当社への関心を持ってもらい、志望度を高めてもらうことを狙いとしました。
これまでの実績が導いたシナジーマーケティングによる伴走
長島 御社が当社に、初めて集客に関するご相談をいただいたのは、開催の1年ほど前でしたよね。
田附氏 これまでBtoB型イベントは多く成功させてきました。しかし、BtoCイベントは初めてということで具体的なノウハウが社内に蓄積されていないため、集客面が最も不安な点でした。まずは短い期間でターゲット層へ確実に情報を届けることが重要であるとともに、「参加したい」という意欲を喚起しなくてはなりません。そこで、戦略立案と集客施策の実行パートナーとして、シナジーマーケティングさんに相談しました。
長島 竹中工務店様とのご縁は長く、弊社のメール配信システム「Synergy!」の運用、そして配信するコンテンツの制作を10年近くサポートさせていただいてきました。その後、BtoB展示会の支援や、今回のような一般向け施策まで、デジタルマーケティング全般で幅広くご支援してきました。
田附氏 メルマガやBtoB関連のサイト制作の実績、そして当社のことをよく理解してくださっていることは安心材料でした。今回、当社にとってデジタルマーケティングは未知の挑戦であり、パートナーに依頼したことがない領域でした。
長島 御社と一緒に今回のようなイベント集客に挑戦するのは初めてでしたが、田附さまがおっしゃる通り、デジタルマーケティングの手法をフル活用した認知向上と集客につなげることは当社が最も得意とする領域の一つです。
上山 ファミリー層、そして建築系の学生に訴求したいという具体的なご要望をいただきましたが、集客したいターゲットをより具体化すると、20~40代の主婦層と20代で就活中の学生ということになります。チャネルとしてはTikTokとInstagram、LINEをご提案しました。これらのプラットフォームはターゲット層との親和性からリーチ力が強く、また期間内に実行可能であり、コストパフォーマンスの良い集客手段という考えに至りました。
特徴的なアプローチの一つとして、マイクロインフルエンサーを活用したSNSでの情報拡散戦略も立案しました。関西圏でファミリー向けにお出かけ情報を発信している方や、建築関係のアカウントで学生のフォロワーが多いインフルエンサーを巻き込み、彼らのオーディエンスに対するリーチとエンゲージメントを最大化しようと計画を立てました。
短期集中のプロモーション計画で採用されたSNSやインフルエンサーの活用
田附氏 今回、開催期間が半月あまりと比較的短いことから、認知がジワリと広がっていくような戦略は不十分という認識が社内にもありました。初の試みということもあり、展示の制作や会場設営といったコストがかさむことが予想されたため、プロモーションにかけられる予算は最初から厳しく制限されていました。
そのため、新聞や雑誌などの広告よりも、拡散力が強いSNSやWebを利用するほうが費用対効果は高いはずであるという社内でのコンセンサスが形成されていました。そこで御社からご提案いただいた内容は、極めて当社のニーズとマッチしていました。
上山 インフルエンサーマーケティングの提案については、どのように感じていましたか?
田附氏 これまでSNSでの広告や集客を実施したことはありませんでしたが、その効果を高めるためにインフルエンサーは非常に有効な推進力になり得るとお聞きして、深く興味を持ちました。ただ、弊社のブランドイメージに合致するように、「どのインフルエンサーを起用するか確認させてほしい」という意見をお伝えしましたね。
上山 展示テーマとの親和性を重視し、インフルエンサー候補の包括的なリストアップを実施いたしました。このリストを御社に精査いただく共同作業を通じて、「どんな属性のインフルエンサーに依頼をするのか」「そしてどんな波及効果やコンバージョンが期待できるのか」といったイメージを共有できたことも、非常に有意義だったと思います。
長島 集客施策の大枠が固まったところで、その戦略に基づいた専用のWebサイトの設計を行いました。ターゲットユーザーの気持ちになって、どんな訴求を行うのかも緻密な設計が必要となります。
特に重点的に取り組んだのが、投稿タイミングの戦略的な設計です。イベントの具体的な内容が決まらないと、訴求するコンテンツも限られてしまいます。直前になればさまざまな情報を開示できますが、そのタイミングだと情報拡散が遅くなります。
そのため、事前のティーザーサイトの作成、そして本サイトの公開、さらに開催中にもコンテンツが追加されるようなスケジュールを設計しました。
田附氏 開催期間が短いことは不安要素の一つでした。過去に手がけた美術展などは、最低でも1か月以上の開催期間があったため、開幕後にメディアで取り上げてもらうことで、集客が追い風となるケースもありました。
しかし、今回のイベントは開催前から認知度を上げておかないと間に合いません。そんな中でも、御社が緻密なサイトの公開スケジュールを組んでくださったことで、大変心強く感じました。
できるだけ早期の情報公開を!スピード重視のサイト制作と広告運用
長島 先ほどもおっしゃっていた通り、御社は情報をできるだけ早く公開したいということで、私たちにできるだけタイムリーな情報を共有していただきました。
田附氏 情報の窓口を私たち広報部だけに限定すると伝達が遅くなることが考えられます。実際に展示内容の準備を担当している設計部や開発計画本部のスタッフと、シナジーマーケティングさんの方々が直で情報共有できるようにしていただいたので、コンテンツの準備などがスムーズに進んだのではないかと思います。
上山 御社の密な情報共有のおかげで、私たちも伴走させていただいている感覚がありました。サイトページも「あとはテキストと画像を当てはめるだけ」という段階まで事前準備を進めておけば、情報解禁時に最速でページを公開できます。特に情報が解禁される日時もあらかじめ教えていただけたことで、先回りの準備ができました。
田附氏 準備が初めてということで想定よりも時間がかかってしまい、御社にご負担をおかけしてしまったと思います。本音を言えば、もっと早く公開したかったのですが、そんな中、御社は臨機応変に動いていただきました。
長島 開催直前に新しい出演者やプログラムが決まるなどは、イベントではよくあることです。ホームページの準備では、先に骨組みを用意しておくことで、いざという時に速やかに告知できます。こうしたスピード感が重要なのはもちろんですが、イベントの趣旨や目的をよく理解したうえで、興味を喚起できるようなコンテンツを設計できました。そして、最終的に来場予約サイトへの導線を考えておいたことが、予約の伸びにもつながったと思います。
上山 追い討ちをかけるようにLINE広告も追加で実施しました。SNS広告では各インフルエンサーが作成した動画コンテンツを広告素材として二次活用したことで企業広告よりも信頼性が高く、共感しやすいプロモーションとして役立ったように思います。学生への認知が想定通り、またはそれ以上に広がっているとお聞きした時は、私たちも手応えを感じることができました。
田附氏 そうでしたね。開催前、とある大学の建築系学科の研究室を訪問し、学生の誘致を強化するための協力を呼びかけることにしました。私たちから「チラシを配布してほしい」とお願いしたところ、「うちの学生は、みんなイベントのことを知っていますよ」と言われたのです。その時に、広告が個人のスマホにしっかりリーチできたことがわかり、デジタルマーケティングの手応えを強く実感しました。そのおかげで、開幕前に集客目標達成の目途を立てることができたのです。
想定していた以上の効果とデジタルマーケティングの可能性
長島 1万人の目標達成ができた時はうれしかったのですが、参加無料のイベントのため、実際にどれだけの方が来場してくださるか見通しがつかなかったため、油断することは全くありませんでした。
しかし、予想以上に高い来場率を実現でき、当初目標の2倍以上となる2万6,000名を超える来場者数を記録しました。人数が目標を大幅に上回っただけでなく、アンケート結果や会場でお聞きした声からも参加者の満足度が9割以上と高い結果だったことに一安心しました。
田附氏 出口アンケートで「このイベントを何で知りましたか?」という設問では、「SNS」が7,357人と圧倒的な数値を記録しました。この数値は、他の手段と比べても5倍から10倍の差があったので、SNS施策の効果は非常に明確だったという結果となりました。
長島 今後の展望についてはいかがでしょうか。
田附氏 まだ次回の開催は確定していませんが、今回の成功により今後のBtoCイベント開催への弾みがついたのは確かです。また広報としては、デジタルマーケティングで得られた知見を公式YouTubeチャンネルの活性化をはじめ、採用の強化などにもいかせるよう、継続的なデジタルコンテンツの充実を計画しています。
上山 動画については、短時間で再生できるほうが、効果が高いことも今回実証されました。インフルエンサーが作成した動画のうち、拡散されることが多かったのはいずれも短い時間の動画でした。タイムパフォーマンスが重視される現代ならではの傾向と言えますね。今回得られた知見は、次回以降でもいかしたいと思います。
田附氏 今回のイベントの内容は、社内メンバーを中心に実行できたことに価値を感じています。一方で、集客やデジタルマーケティング全般は、シナジーマーケティングさんの伴走あってこその成果だったと思います。実行の質とスピードを兼ね備えた取り組みに感謝しています。
長島 大変ありがたいご評価をいただき、うれしく思います。こちらも、竹中工務店様のような歴史と実績を兼ね備えた企業の新たな挑戦を微力ながらサポートでき、心から光栄に感じています。建物の魅力をどう伝えるか、リクルーティングにどういかすかなど、今後も本質的なご提案と実行プランをお示しできたらと思います。
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。