アフターコロナのファンマーケティング再構築
~セレッソ大阪が取り組む顧客視点改革ワークショップ~

株式会社セレッソ大阪

2020年から続くコロナ禍の影響で、スポーツ界は無観客や観客動員数を制限した上での試合開催を余儀なくされてきました。これまで「来場し、熱い試合を観戦して楽しい時間を過ごしてもらうことで、再来場やロイヤリティ向上に繋げる」ことを軸に集客・マーケティング活動を展開してきたスポーツチームは、考え方の大きな転換を迫られました。

来場してもらうハードルが高まった中でも、既存のファンとの関係性を維持し、かつ新しいファンを獲得しなければなりません。これまで以上にファンと向き合い、チームを応援してもらうための動機を提供する必要があります。そのためには、日頃ファンに向き合っている社内のメンバー全員がファンのために考え抜き、一貫した独自の価値を訴求し、施策に取り組むことが大切です。

J1に所属するプロサッカークラブ・セレッソ大阪も、「コロナ禍でファンと繋がり続けるためにはどうすればいいか」という課題を感じていました。また、部署ごとに想いを持ってさまざまな施策に取り組んでいるにもかかわらず、部署間の情報共有は十分にできていない状態でした。

そこで、シナジーマーケティングが提供する「ファンを知るためのアンケート分析&ペルソナ作成」と、顧客行動と感情変化の両軸でファンの状態を可視化し、チーム内の共通認識を醸成する「ワークショップ型戦略策定プログラム」に取り組みました。

今回は、セレッソ大阪の宮島様と島田様にインタビューを行い、ペルソナ作成やワークショップに託した期待や、実施してみての気付きなどを伺います。

インタビュー参加者

▼写真左より

宮島 武志 氏
株式会社セレッソ大阪 副社長

島田 皓介 氏
株式会社セレッソ大阪 社長室 広報プロモーショングループ プロモーションユニット ユニットリーダー 兼 事業部 スタジアムグループ サポーターサービスユニット

畠中 凌
シナジーマーケティング株式会社 クラウド事業部 第1アカウントソリューションG 営業

酒井 惇規
シナジーマーケティング株式会社 クラウド事業部 第1デジタルマーケティングG コンサルタント/Webアナリスト

多々良 史弥
シナジーマーケティング株式会社 クラウド事業部 第2デジタルマーケティングG マーケティングコンサルタント

※部署名・役職は取材当時(2022年4月)のものです

ファンとの継続的なコミュニケーションと、一貫性のある施策実行に課題

畠中 セレッソ大阪様もコロナ禍において大きな影響を受けていることと思いますが、まずはマーケティングの現状から教えてください。

宮島氏 4年以上前から改築構想を進めていた新スタジアム「ヨドコウ桜スタジアム」が、2021年7月に竣工しました。元選手でセレッソ大阪代表取締役社長の森島も「満員のスタジアムで試合をすることは選手にとって特別であり、そうした環境下では実力以上の力を発揮できる」と話しています。私たちとしても「新スタジアムをお客様で満員にして、歓喜の瞬間を体験していただきたい」という思いで取り組みを進めてきました。しかし、スタジアムの入場制限が必要となり、50%ほどしかお客様を収容できない、もどかしい状況が続いてきました。そんな中でも、チームの戦績以外の集客要因は私たちの頑張り次第でコントロールできるという思いを持って、ファンと繋がるためのさまざまな取り組みを進めてきました。

畠中 具体的には、どのような取り組みを行っていますか。

宮島氏 コロナ禍で来場いただく機会が減ったとしても、繋がりを保ち続けるために、デジタル上での接点を増やしてきました。たとえば、YouTubeチャンネルのコンテンツ内容を改善したり、クラウドファンディングを実施したり、ファンクラブに新しく「ライト」というプランを追加してコアなファンの方以外も入会しやすくしたりしています。

島田氏 デジタルマーケティングを活用してファンとの繋がりを維持しようと、バースデーメールを送ったり、メールの配信頻度を増やしたりと、メールマーケティングにも力をいれ、デジタル上でファンと接点を持ち続けることを意識しています。

多々良 コロナ禍でどのようにファンとの接点を持ち続けていくかという課題は、スポーツ界全体に共通していますが、中でも「ファンマーケティング」というキーワードが注目されています。島田さんのおっしゃる通り、デジタルマーケティングを活用して接触頻度を増やすべきですし、たとえ試合に来場できなくても、ファンがチームへの関心と愛着を持ち続けてくれるような関係性を構築・維持することはどのスポーツチームも取り組んでいかなければならないことです。

畠中 セレッソ大阪様では、複数の部署で集客やマーケティングを実施されていますよね。部署間の連携はスムーズに取れていたのでしょうか。

島田氏 広報・プロモーション、ファンクラブ、グッズ、試合運営、ホームタウンなど、それぞれの部署で施策を実施しています。また、それらを束ねるファンマーケティングユニットという部署もあります。各部署はそれぞれ、「部署間でもっと連携して取り組みを進めたい」という思いを持っています。しかし、実態としては縦割り組織になりがちで、他の部署がいつどんな施策を打っているのかや、どんな思いで施策に取り組んでいるのかを十分に把握できておりませんでした。そのため、集客・グッズ展開・試合の演出などあらゆる面で、クラブとして一貫した施策を打ちづらいという課題があったのです。

部署間の連携と全体の施策把握について課題を語る島田氏

アンケート&ペルソナ作成で、来場回数だけではわからなかったファンの実態を把握

畠中 セレッソ大阪様の現状や課題を伺った上で、シナジーマーケティングから2つの提案を行いました。1つは、ファンにアンケートを実施した上でのペルソナ作成、もう1つは「ワークショップ型戦略策定プログラム」の実施です。アンケートとペルソナについては、今後ファンマーケティングを実施していくにあたって、まずはファンを知ることが重要と思ったため、提案させていただきました。

宮島氏 いろいろな観点から、セレッソ大阪のコア/ライト層を定義して3つのペルソナを作成していただきましたよね。これまでセレッソ大阪では、ファンを来場回数の軸でしかセグメントしてこなかったため、新たなペルソナができたことでセグメントごとの施策も実施しやすくなります。

畠中 来場回数だけではわからなかった、ライト層の実態が掴めたように思います。家族や恋人や友人と観戦するライト層にスタジアムに通う価値を実感してもらって、2度目や3度目の来場に繋げられれば、将来的にはコアファンになってもらうことも可能です。また、その方たちは試合の勝ち負けよりも、スタジアムの空間そのものや、そこで過ごす時間の楽しさを重視しているとわかりました。

宮島氏 アンケート分析から作成したことにより、3つのペルソナそれぞれがどの程度の割合でいるのか、はっきりわかったことも収穫でした。ある施策を実施するにしても、ターゲットが1万人なのか100人なのかによって得られる成果は大きく変わるため、施策を選択する時の参考になるからです。

アンケート結果を基に作成した3つのペルソナ。セレッソと共に生きてきたコアファン。家族で楽しみたいライト層。恋人や友達と観戦する若年層。

多々良 ファンへの理解を深めた後は、「さまざまな部署の方を集めて『ワークショップ型戦略策定プログラム』を実施しましょう」と提案させていただきました。ワークショップを通じて、「お客様に取ってほしい理想の行動や態度変容」を一枚絵(ダイアグラム)に表し、企業のマーケティング施策を「顧客視点」から整理することで、戦略と施策に一貫性を持たせることができるというものです。観客動員数を増やす目的を達成するためには、局所最適ではなく、セレッソ大阪様社内で認識を合わせて施策に取り組んでいく必要があると思いました。

宮島氏 セレッソ大阪では、「試合でプレーする選手以外の裏方も含めて、皆でスタジアムのワクワク感を作り上げているからこそ、一致団結して取り組んでいこう」という意味を込めて、「SAKURA SPECTACLE」というスローガンを掲げています。SPECTACLEは壮大なショーという意味であり、我々はそれを創り上げるために個々が役割を果たしています。セレッソ大阪には、内面に熱い思いや意志を持っていながらも、自己表現の機会が少なかった印象がありました。皆で一致団結するためにも、さまざまな部署のメンバーが集まって同じ目線で話をするような機会が必要だと感じていたので、ワークショップの場は最適だと思いました。

セレッソ大阪のスローガン実現のための施策について語る宮島氏

島田氏 これまで、せっかくアンケートなどの施策を実施しても、部署内で完結してしまって全社に広がらないケースが多くありました。「全社的にファンマーケティングに取り組んでいく」という意思表示をする意味でも、ワークショップの実施はいい機会になると思ったのです。そのため、試合運営、広報、ホームタウン、グッズ、ファンクラブなど、ファンと何らかの接点を持つすべての部署から、合計10名ほどのメンバーに参加してもらいました。実施前には、時間を取って1人ひとりに「今必要なことだから」とワークショップの目的を説明しましたね。

ファンのセレッソ大阪との接点をスタートからゴールまで共通認識化。部署をまたいで協力して施策を進めやすい体制へ変化。

酒井 ワークショップは全5回かけて行いました。休日や仕事終わりの可処分時間をどう過ごすか決めていない方に対して、どんな働きかけをすれば、セレッソ大阪の試合に来場してもらえて、最終的に周りの人を誘ってもらえる状態に至るのだろうかと話し合いました。

宮島氏 最初のスタートとゴールの定義付けにかなり時間を掛けましたよね。「可処分時間をどう過ごすか決めていない状態」をスタートに定義することで、スタジアム観戦に興味を持っていない人がどんなきっかけで初観戦に至るかを改めて想像する機会となりました。広報やPR領域の方は普段からそういったことを考え、施策を実施していますが、それ以外の部署のメンバーの方は普段なかなか想像しないことなので、視野を広げ施策をつなげて思考してみるいい機会になったのではないでしょうか。

酒井 ゴールは「ワクワク体験を積み重ねることにより、誰かを試合に誘う状態」と設定しましたが、「ワクワク体験」の定義について議論していただき、共通の認識が持てるよう話し合っていただきました。

宮島氏 「ワクワクは、いつどんな時に抱く感情なのだろう?」という議論が活発に行われましたよね。ワクワクとは、期待する物事を前にして湧き起こる感情であり、エキサイトする時間や新しい体験に触れて、期待以上の感動をした時にまた生まれる感情だという共通認識に至りました。私たちは、観戦を決めた人が観戦前後にワクワクできて「もう一回観たい」と思えるようなサイクルを作る必要があることもわかりました。

「可処分時間をどう過ごすか決めていない状態」から「ワクワク体験を積み重ねることにより、誰かを試合に誘う側になる」へ至るまでの行動や態度変容を可視化した一枚絵(ダイアグラム)

島田氏 現状施策をマッピングした時に、施策の偏りが一目瞭然になったことも印象的でした。具体的には、初観戦に足を運んでもらうための施策はたくさん行っていたものの、「誘い誘われる」サイクルを作る施策が2つしか無かったのです。今回のように図に表したことで、施策の偏りに初めて気付くことができました。その日のワークショップ後は、メンバーで反省会を開いて「これから何に取り組むべきか」を話し合いましたね。

酒井 ワークショップの後半で、今後取り組むべき施策を挙げていく際には、普段担当されている業務領域を超えて「こういった施策がいいのでは?」といったアイデアがどんどん飛び交いましたよね。

島田氏 「この施策とあの施策を組み合わせてみたらいいのでは?」といった話も出ましたし、「え!こんな施策をしていたの?」と初めて知ったこともありました。他の部署の施策内容を理解できたことで、部署間で連携すればすぐに解決できそうなアイデアがあることもわかり、協力しやすくなりました。

「誘い誘われサイクル」に重要なのはファンの「言語化」サポート

畠中 宮島様は、ワークショップ全体の雰囲気をご覧になっていかがでしたか?

宮島氏 ワークショップの場では、みんなが素直に抱えていた思いを話していました。スタートからゴールまでのプロセスを描く中で、「自分と周りの考えは違うんだ」と実感するシーンにたくさん出会いましたが、互いに認め合いながら議論することで共通認識が持てたので、ワークショップは成功だったと思っています。

実施したワークショップについて会話するインタビュー参加者

畠中 現場の皆様はワークショップで得た気付きを、どのように生かせていますか?

島田氏 これまでは「来場してもらう」ことをゴールに置いて、施策を考えているメンバーが多かったように思います。しかし、ワークショップ後からは「2回目来場に繋げるにはどうすればいいか」、「誘い誘われるサイクルを実現するためには、どうすればいいか」といった発言がメンバー間でよく聞かれるようになりました。試合が終わったら完結ではなく、「再来場してもらうためには、むしろ試合後の方が大切だよね」という視点を持てるようになり、試合後にファン同士が交流できる場を作るなど新しい施策も動き始めています。

酒井 ワークショップの後半、ゴールに近づくステップの中では、「言語化」の重要性も話題に上りましたよね。「周りの人を初めて誘う際に、どのような言葉でセレッソ大阪の魅力を表現して誘うのだろうか」、「誘い文句をセレッソ大阪が意図的に提供できているのだろうか」といった質問を投げかけました。

島田氏 来場者に楽しい時間や空間を提供するだけでなく、感じた魅力を言語化してもらうことが重要というところまで議論できたことがとてもよかったです。何を魅力と感じて周りを誘うかは、1人ひとり異なると思います。ただ、セレッソ大阪の魅力をしっかり言語化することができたら、その人が周りの人を誘いやすくなると思うので、観戦体験やおすすめポイントの言語化をサポートできるようなイベントやコンテンツを作っていきたいです。

片道切符ではなく、双方向型のコミュニケーションへ

酒井 最終報告では、シナジーマーケティングから「ファンをベースとした企画づくり」「単発施策と中長期施策を組み合わせた『全体構築』」「『ファンがファンを作るサイクル』を実現するためのKPI設計」という3軸で、今後のマーケティング方針についても提案させていただきました。

島田氏 ワークショップ後にさっそくプロジェクトチームを組成し、シナジーマーケティングからいただいた案も含めて50ほどの施策案を並べた上で、優先順位付けをして、取り組みを始めています。

多々良 ワークショップで議論し、共通認識を持てたことで、「この人の、こうした態度変容が起こるように、この取り組みをする」と明確な目的意識を持って戦略や施策内容を考えられるようになったのではないでしょうか。

今後の取り組みについて会話するインタビュー参加者

宮島氏 ターゲットを意識した施策を打つ視点が身に付いたのは間違いありません。また、施策のPDCAサイクルをきっちり回して、「どの施策で、どのような成果が挙がったのか」を根拠となる数値とともに記録して、次の施策に生かす動きもできるようになっています。毎試合、スタジアムを満員のお客様で埋めるためにも、「セレッソ大阪のスタジアムに行けば、何かしら面白いことがある」「誰を連れて行っても楽しめる」と思ってもらえるような空間づくりをしていきたいです。

酒井 弊社としては、各施策がしっかり成果に繋がっているかやさらに改善できるポイントが無いかということを、評価して改善できるサイクル作りをご支援できればと思っています。

宮島氏 これまでファンの方との接点は、セレッソ大阪から「こんなサービスがあるのでどうぞ」と差し出すような、片道切符のコミュニケーションになってしまっていたように思います。しかし、今後はファンの方が本当に望んでいることは何なのかをしっかり聞いて実現していく、対話型のサービスを提供していかなければなりません。双方向型のコミュニケーションを増やすことが、これまでクラブを30年支えていただいたファンの方へのお返しにもなりますし、今後セレッソ大阪のファンを増やすためにも必要なことだと思っています。

多々良 ファンに対するコミュニケーションにおいては、どうしてもイベント概要や企画内容などの事実情報だけを届けがちですが、その先にある「ファンにどんな感情になってほしいか」をうまく伝えることも大事だと思っています。そうしたコミュニケーションの設計面においても、今後ご支援させていただければと思います。

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。

株式会社セレッソ大阪
副社長
宮島 武志 氏

株式会社セレッソ大阪
社長室 広報プロモーショングループ プロモーションユニット ユニットリーダー
兼 事業部 スタジアムグループ サポーターサービスユニット
島田 皓介 氏

株式会社セレッソ大阪

Jリーグ・J1に所属しており、大阪市・堺市をホームタウンとするサッカークラブ・セレッソ大阪を運営。親会社のヤンマーホールディングスが1957年に創設したサッカーチームがクラブの発祥であり、1993年にプロ化をして2023年で30年を迎える。「SAKURA SPECTACLE(サクラ スペクタクル)」というクラブ理念のもと、「サッカーを核とする事業を展開し、夢・希望・感動にあふれたスポーツ文化の振興と地域社会の発展に貢献する」ことを目標に掲げている。

シナジーマーケティングのCRM支援サービス。メール・Webサイト制作、データ分析、各種代行業務まで。CRMにまつわるすべてを一気通貫でご提供!詳しくはこちら