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シナジーマーケティングはプロジェクトの共同推進者
プロファイルマーケティングを目指すファイザーの挑戦
ほかとは異なる医療業界のマーケティング
―― まず、御社についてお教えください。
「弊社は、ヘルスケア分野におけるグローバルカンパニーです。中でも医療用医薬品に特化しており、在籍しているMR(※)の数も日本でNo.1です。
弊社のストロングポイントは、3つあると考えています。1つめが、グローバルカンパニーであるという規模の経済性。2つめが、日本最大のMRリソースを保有している点から見た規模の経済性。3つめが、頭からつま先にいたるまで身体のほとんどの部位に利用できる薬剤をそろえているという規模の経済性です。
この3つの規模の経済性が、現在のファイザーを支えていると考えています」
※MR…Medical Representativeの略で、医療従事者を訪問して医療用医薬品に関わる情報の提供、収集、伝達を行う担当者。
―― 医療産業は、ほかの産業と異なる特殊な市場だという印象ですが?
「そうですね。医療産業は『生命』という人の本質に関わるものであり、より高い倫理性が求められています。製薬会社が厳しい規則を守りながら活動することは当然のことであり、弊社はコーポレートガバナンスを第一に考えています。たしかに企業である以上、利益を追求しなければなりません。しかし、同時に企業として規則とコーポレートガバナンスをしっかり守っていくことが重要です。
さらにマーケティングにおいても大きな制限があります。それは、処方箋が必要な薬剤類は、患者にダイレクトプロモーションができないことです。それは、薬剤を選択して処方するには資格が必要だからです。そのため、マーケティングと言っても、ほかの業界とは大きく異なる環境だと思います」
MRの仕事をデジタルチャネルで実現する会員制サイト 「ファイザープロ」
―― 早速ですが、御社のデジタルマーケティングについてお聞きします。まず、全体としてどのような活動を行っているのでしょうか?
「それについては順を追って説明しましょう。
弊社は、国内においては2002年頃からマーケティングにおけるデジタルチャネルの活用を始めていましたが、ブランド中心のアプローチであり、潜在顧客層に情報を届けることができていませんでした。
その結果、医療関係者が評価する医療情報サイトのランキングでは10位程度に留まっていました。逆に、MRに対する評価は、規模の経済性の強みをいかし常に3位以内でした。つまり、医療関係者とのチャネルという観点から見た場合、当時のデジタルマーケティングには何か問題があるのだろうと感じていました」
―― デジタルマーケティングにおけるチャネルの課題はどこにあるとお考えになったのですか?
「一言で言うと『ユーザビリティ』ですね。ユーザー視点にもとづくアプローチが必要だと考えていたのです。同時に、MRの仕事をデジタルの世界で実現できないかとも考えていました。
と言うのも、患者にダイレクトにプロモーションできないため、MRは患者の目に触れないように医療情報の提供と収集を行わなければなりません。つまり、MRはクローズドの世界で情報の提供と収集を行っているわけです。ならば、デジタルチャネルでも会員制サイトのようなクローズドな環境を用意して情報を伝達できれば、MRの仕事と同じことができるのではないかと考えたのです。
それを実現するために、2010年2月に医療関係者向けの会員制サイト『Pfizer for Professionals(以下、ファイザープロ)』を立ち上げました。このファイザープロが、弊社のデジタルマーケティングのファーストステージです」
―― ファイザープロでは、どのような施策を行っているのですか?
「施策は大きく3つです。まず、クローズドな環境を提供できるサイトの構築です。次にコンテンツの製作、最後がメールマガジンです。
お客様である医療関係者のニーズをもとにコンテンツを製作し、症例ごとのサイトを複数用意しました。結果として、2013年には医療情報サイトのランキングで1位の評価を獲得し成果を上げることができました。しかし、依然としてメルマガには改善の余地があると感じていました」
プロファイルによるお客様の行動の先読みでメルマガの課題を解決
―― メルマガにおける課題とはどのようなものですか?
「弊社のデジタルチャネルにとって、メルマガは重要なプッシュ型コミュニケーションです。メルマガが機能していないことは、弊社からの情報伝達が滞っていることを意味します。
個人的な意見ですが、メルマガはMRの行動に置き換えると「訪問」に近いシーンだと捉えています。MRが医師の所に行って名刺を出すまでを『メールの開封』、『面談許可』を『クリック』に見立てています。このようにしてメッセージの浸透度をイメージし、それぞれの指標としているのですが、その数値に納得できていませんでした。
この課題の原因は、コンテンツではなくリーチの仕方にあるのではないかと考えたのです」
―― メルマガにおけるリーチの仕方に課題があるとはどのようなことですか?
「メルマガによるアプローチをMRの行動を置き換えて話しましたが、その両者のインパクトの違いです。
やはり、人によるコミュニケーションはデジタルによるそれよりもはるかにインパクトが大きく、単純なメルマガ配信ではその差を埋めることは難しいでしょう。
メルマガは医師の部屋のドアをノックすることと同じことができても、医師が何を思っているのかまでは分かりません。しかし、MRはコミュニケーションの過程で医師の反応を見ながら、伝達する情報を選択し、興味度合いを育成していくことができます。それをメルマガでもできないか、と考えたのです」
―― つまり対面型のコミュニケーションならお客様が求める情報を推し量って提供できる。それをメルマガでも実現したい、ということですね。
「そうです。そこで考えたのがプロファイルによるお客様の興味の先読みです。要は、医師の属性、あるいは行動などのプロファイルから、ある医師がどのような情報を必要としているのかという仮説を導き出し、適した情報を提供できないかと考えました。
マーケティングで忘れてはいけないのは、それがカスタマーセントリック(Custmer Centric 顧客中心主義)アプローチなのか、ということだと思っています。それまでの弊社のメルマガは、循環器の医師だから循環器のコンテンツを送るだけでした。しかし、専門外の情報を探しているケースもあるはずです。
では、それをどうやって捉えるのか、という答えはカスタマーセントリックという考え方にあるはずです。その現実的な解となるのがコンテンツ閲覧履歴や、そこに含まれるワードから、1人ひとりの医師プロフィールをひも解いていくというアプローチを実現する『iNSIGHTBOX 』と『 Societas 』というシナジーマーケティングのアプリケーションでした」
医師1人ひとりのプロファイルにもとづくテストマーケティングを実行
―― 弊社のサービスを利用して、最初に取り組んだことは何ですか?
「まず、弊社が実現したいことをベースにいろいろと相談することから始めました。
こちらからのオファーに対して、シナジーマーケティングから技術的な回答をもらい、その上で実現したいことにどうやって近づいていくか、ということについて検討を重ねました。そこが固まってからは動きが速くなったと思いますね。すぐにテストマーケティングに取りかかることになりました」
―― どのようなテストマーケティングをされたのでしょうか?
「パーミッションが取れている医師全員に配信している通常のメルマガで、テストマーケティングを3回行いました。まず、過去のメルマガコンテンツへのクリック履歴データにもとづき、iNSIGHTBOXのアルゴリズムを用いて特定のキーワードへの反応の仕方で医師を4つのクラスタに分けました。そのクラスタのプロファイルに即したコンテンツをメルマガで配信したのですが、『メルマガタイトル』と『コンテンツの並び順』の2つの要素でA/Bテストを行いました。
その結果、通常のメルマガと、タイトルと並び順を最適化したメルマガでは、開封率とクリック率に有意差が見られ、ともに最適化することで相乗効果があることが分かりました。
つまり、プロファイルに応じたコンテンツを適切に配信することで効果的な情報提供が可能になることが分かったのです」
―― Societasを利用した医師のプロファイリングはいかがでしたか?
「最初の印象は違うと思いましたが、読み解いてみると合っているなと思いました。
どういうことかと言うと、Societasによれば、ある科の医師は『家族思い』という価値観が出たのですが、それに違和感があったんですね。そうではなくて、医師は『仕事重視』の傾向が多いのではないかと、最初はそう思いました。
ですが、医師の生活面などを含めて読み解いてみると見方は変わってきます。医師は、忙しいとは言え経済的に裕福であるなら家族とのリレーションも強く、家族への関心も高いのかもしれないと理解できます。また、別の科の医師は、『個』を大切にしていて同時にアクティブでもある『オタク要素』がかなり強いのではないか、ということもSocietasから読み解くことができました。
こういった「医師の価値観」という側面から、医師の心の機微に触れてみるというのも面白いマーケティングアプローチだと思います」
―― Societasによるアウトプットをこのように活用したい、というアイデアはお持ちですか?
「先の『家族思い』という価値観が強いのなら、コンテンツのクリエイティブに家族団らんなどのイメージを利用することで反応率を高めることができるのはないかと考えています。また、ニッチなターゲットがあるのなら、それを読み解くことで適したコンテンツの届け方を考えるヒントになるのでは、とも考えています」
シナジーマーケティングは「一緒にプロジェクトを推進したパートナー」
―― 今回、弊社が御社の取り組みをお手伝いさせていただきましたが、感想などありましたらお願いします。
「実は、先ほどからその『お手伝い』という言葉に違和感を感じていたんですよ。私は、シナジーマーケティングの仕事を『お手伝い』とは見ていないんです。むしろ、『一緒にプロジェクトを推進した』と捉えています。シナジーマーケティングは、単なるシステム会社ではなく、『データにもとづくエビデンスを軸に、マーケティングアプローチを企画支援する会社』であると思っています。
そもそも、私はマーケッターの大きな仕事は、データであるファクトをいかにして情報に変えていくのかにあると思っています。それを可能にするのは知識とロジックです。
シナジーマーケティングはその点も優れていると思います。その方法の1つであるプロファイリングのロジックは、御社が一番優れているのではないかと評価しています」
―― ありがとうございます。では、最後の今後の展望について教えてください。
「現在の弊社の会員のうち、今回の取り組みのようなプロファイルにもとづくマーケティングが適応できる範囲は25%程度です。残りの75%の会員に対してもプロファイルを推定できるようなロジックを活用して、最適なコミュニケーションを実現していければと考えています」
※iNSIGHTBOXはサービスを終了いたしました。価値観での顧客セグメンテーション「Societas」は引き続きサービスを提供しております。
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。