iNSIGHTBOX戦略企画立案顧客データ分析レポーティングアンケート/リサーチ各種業務代行メールマーケティング製造
独自ロジックで緻密なセグメント
クリック率が6倍に上昇した事例も
※こちらの記事は「東京IT新聞 第182号」からの出典となります。
「30代/女性/東京都在住/年収401万~500万円」――。こんな雑なセグメントで絞った対象者に販促をしたところで、高い広告効果が見込めないのはいまや常識。あまり売り込みが強いと、逆に反感を持たれかねない。シナジーマーケティング株式会社(大阪市北区、谷井等社長)が始めた社会知データベース「iNSIGHTBOX」(インサイトボックス)は、膨大な顧客データから独自のロジックで緻密なセグメンテーションを行えるクラウドサービスだ。リンナイ株式会社が顧客に送ったHTMLメールのクリック率を調べる実証実験では、ランダム抽出した対象との間で6倍もの差が出た。
インターネットマーケティングの指標を判断する基準を提供
「iNSIGHTBOX」(インサイトボックス)の仕組みはこうだ。
まず企業は購買データ、メール反応データ、Webログなどの顧客データを、クラウドサービスであるインサイトボックスへアップロードする。すると、インサイトボックスは独自の解析を自動で行い、顧客をパーソナリティーごとに分類。有望ターゲットリストとその層に響くキーワードをセットで提供してくれるというものだ。
多くの会社が保有する膨大なデータを統合・分析
通常、大量のデータ分析は統計分析系の回帰分析やベイズ推定、あるいは情報工学系の協調フィルタリングや決定樹、ベイズ推定などの手法で専門のエンジニアアナリストが行うが、インサイトボックスはこれを自動化した。また、大きな特徴としてあげられるのが、一企業のデータだけでなく、多くの会社が保有する膨大なデータを統合して分析することによって、「社会の集合知」ともいえるデータベースを構築していることだ。
シナジーマーケティングのCRMインサイトラボの後迫彰フェローは、開発の動機をこう語る。
「弊社は『Synergy!(シナジー)』という顧客管理のためのクラウドサービスを展開しており約2000社に利用いただいています。メルマガ配信では開封率など各種指標も取れますが、その値の良し悪しを判断する基準がありませんでした」。
例えばメルマガ開封率が5%なら、それは高いのか低いのか――。同社では企業や商品の知名度、規模によってユーザーに説明していたが、数字の根拠がなく説明はまちまちにならざるを得なかった。「2000社のアカウントをお預かりしている会社として責任ある回答をしなければなりませんでした。それで、セグメントごとの平均的ペルソナ(典型的な顧客像)を描き出すことにしたのです」と後迫フェローは続ける。
リンナイと組んで施策を実施、クリック率が6倍に
インサイトボックスの開発に当たっては実証実験を行っている。声を掛けたのが「Synergy!」のユーザーで、キッチン用品ガスコンロなどで知られたリンナイ株式会社だった。
リンナイは「R.STYLE(リンナイ・スタイルリンナイスタイル)」というガスコンロ交換部品などを扱うECサイトを展開している。じわじわ会員を増やし、現在その数は10万人になった。
同社管理本部eビジネス推進室の福本啓史室長は説明する。
「一般的な消費財のECサイトは派手な表現で新規客の取り込みに力を入れますが、R.STYLEは既に当社製品を所有しているユーザーを主な対象としています。だから“売らんかな”の押しの強いレコメンドメールはブランド価値を傷付け、退会者を出してしまう。リンナイに価値を認めてくださる優良顧客に絞って適切なコミュニケーションを行う必要があったのです」。
両社の思惑が一致し、実証実験がスタートした。
“響くワード”でクリック率が6倍に上昇
実証実験はまず優良顧客をLTV(ライフ・タイム・バリュー=一人の顧客から生涯にわたって得られるであろう利益)の大きな顧客と定義。さらに、LTVと関連の強い変数を調べたところ、「ビルトインコンロ部品/お手入れ&便利グッズ/ガス炊飯器部品/テーブルコンロ部品/フィルター」のいずれかの購入金額が高いユーザーと関連が強いことが分かった。これで優良顧客像が明確になった。
さらに、この5者グループにそれぞれ所有品に適した関連商品のレコメンドメールを送ったところ、開封率は平均57.6%という高い値を示した。退会率は0.6%だった。さらにはリンナイ以外のデータも統合し、より大きなデータを元に分析した。どの家庭でも使う掃除用品と炊飯用品で計10アイテムを取り上げ、これらの購入が多い顧客を独自のロジックで7グループに分類。それぞれの群に響くワードを抽出して提案した。
リンナイはこれを受け、HTMLメールのクリエイティブを工夫。256人の施策対象者と、ランダム抽出者にメール送信したところ、商品サイトのクリック率は施策対象者で9.77%、ランダム抽出者で同1.61%となり、約6倍もの結果が出たのだった。
「クリック率の高さもさることながら、目を見張ったのは退会率の低さです。メールが嫌がられていない。情報を求めている人に、より適した情報を、心に響く表現で送ることができる。当初思い描いていた理想が形になったのです」と福本室長は驚きを隠さない。
購入を左右した“情緒的要素”を取り出し分析
インサイトボックスの解析は、一般的なセグメンテーションで使われる性別や年齢層など個人情報を重視していない。その代わり、ある商品やサービスの購入を左右した、主に“情緒的要素”を取り出して分析するのが特徴だ。
例えば、ペットボトル飲料は「のどの渇き/コンビニ/自販機/さわやかさ/甘み/……」などのワードを抽出。どの要素が重視されて購入に至ったかを分析する。シナジーマーケティングでは協力企業から預かった膨大なデータを元に一つ一つ要素に分解し、タグ付けしていく。インサイトボックスが「社会の集合知」ともいわれるゆえんだ。
「ビッグデータ」とは異なる社会の集合知
解析システムや、異なるフォーマットで記録された別々の企業のデータ統合については、慶應義塾大学大学院経営管理研究科ビジネス・スクールの井上哲浩教授が全面的に協力した。
「たとえ一人のデータでも、何を、いつ、どこで、どんな理由で買ったかというデータを、蓄積していくと膨大になりますが、これが何百万、何千万人分になっても大丈夫。さらに、ほぼどんなフォーマットのデータでも統合できるようになっています」と話す。
これだけ聞くと、まさに今年のキーワードとなりつつある「ビッグデータ」であるかのようだが、井上教授は「そもそも社会の集合知とビッグデータは異なるもの。量よりもバリエーションが大事です」と補足する。
10社約400万人分のデータを蓄積、あらゆる業種の網羅目指す
適したデータは、問題認識、情報探索、代替案評価、選択、そして選択後評価という一連の意思決定が一人で下されるものだ。ペットボトル飲料でいえば、のどの渇きを覚え、どんな飲料があるか探し出し、それらを評価し、どれかに決め、消費後の評価をするということ。意思決定が複雑になる高額商品やB2B商品は向かない。
インサイトボックスには現在、ECサイト運営、製造小売、旅行代理などの10社400万人分のデータが蓄積されている。「スポーツクラブ、野球やサッカーなどのプロ球団、映画館などにも加わって欲しいですね。シンプルな意思決定で購入されるあらゆる業種を網羅し、ゆくゆくは日本人のペルソナを何パターンか提示してみたいですね」と後迫フェローは展望を語る。まさにクラウドのなかに小さなバーチャル社会ができたといえる。
※iNSIGHTBOXはサービスを終了いたしました。価値観での顧客セグメンテーション「Societas」は引き続きサービスを提供しております。
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。