ファンクラブ事業の黒字収益のポイントは
「仮説検証」と「判断軸」

株式会社ヤクルト球団

株式会社ヤクルト球団は、歴史は古い球団ですが、他球団に比べファンクラブの運営は小規模に止まっていました。 ファンクラブの会員を増やし、黒字収益を上げるためにITシステムを導入し、右肩上がりの成長をとげています。 システムありきではなく、成果を上げるために必要なもの、必要なことを仮説検証することで実際の成果につなげたファンクラブ事業についてお話をうかがいました。

※2015年8月27日に開催した「顧客ロイヤルティー数値化によるファンクラブ活性化セミナー ~プロ球団が語る! CRMにおける個客の推奨度(NPS)の重要性~」のレポートをお届けします。

ファンクラブ事業ってなにをしているの?

- ヤクルト球団様のファンクラブ事業とはなにをしているのかということについて聞かせてください。

金木氏 ファンクラブの目的は、ファンのみなさまに、いかに会員になっていただくか、いかに事業として黒字収益を上げていくかということです。
ヤクルトのファンクラブ(Swallows CREW【スワローズクルー】)は無料会員を含めて6ランクあるのですが、年会費を払って会員になっていただくお客様をいかに増やしていくかというところを中心に動いています。さらに継続して契約していただくために、全体のバランスを見ながらランクごとのサービス内容に気を配っています。
おかげさまで2013年からは会員数も右肩上がりで増加し、現在では黒字収益を出す事業になっています。

- 全体を見ながら運営の方向を決定していく中で、大変なことはなんですか?

金木氏 たぶんみなさんもそうだと思うのですが、判断軸をどこにおくかということが非常に難しいです。
今年プラチナ会員というランクを新設したのですが、その年会費を決めるためにwizpraさんのアンケート結果というお客様の反応をひとつの軸としながら、結果を鵜呑みにするのではなく、実際に収益を出すためにはいくらが妥当なのか時間をかけて検討しました。
おかげさまで募集の締め切りを待たずに、現時点で当初の見込み通りの会員数を達成しています。

- 物事を決断する判断軸を決めるのは大変だというお話は非常に共感します。
今西さん、物事を決断する際の判断軸にNPS(※)を活用することはできないのでしょうか。

今西氏 そうですね。NPSは2つの意味で有効だと思います。
1つは、お客様の声をきちんと定量化して分析・分類できるので、仮説検証が非常にやりやすく、結果が点数で出てくるので判断基軸に利用できるところです。2つ目が結構大きいのですが、説明する際の根拠になるというところです。「アンケートを取りました。こういうコメントが多かったのでこれにします」ではなくて、「このランクのロイヤルカスタマーの人たちはこういうことを言っていて、こういうことを改善した結果これくらいのインパクトが出る」と、収益的にこういうインパクトが出るという定量データとそれが収益につながるデータを紐付けた説明材料になり、物事を決めていく時には有効だと思います。

※NPS:お客様が企業に対してどのくらいのロイヤルティー(信頼、愛着) があるかを定量的に計測できる指標。
※NPS®はBain&Company、Fred Reichheld、Satmetrix Systemsの登録商標です。

ファンクラブでのIT活用について

- 次に、ヤクルト様のファンクラブにおけるITの活用についてうかがいたいと思います。
3年前にファンクラブをリニューアルされましたが、具体的にITを導入しようと思われた経緯を含めてお聞かせください。

金木氏 2012年7月に、ファンクラブを含めたチケッティングのシステム化を推し進めたいと球団からオファーがありました。
当時、年間シートを買われているお客様、ファンクラブ会員の方、実際にチケットを購入されているお客様のデータがばらばらの状態でした。例えば年間シートを買っているお客様がファンクラブに入っているのかとか、ファンクラブに入っているお客様がチケットを買っているのかとか、全然わからなかったんです。ファンクラブ事業で黒字を出していくために、システムの統合とチケットサイトのリニューアル、それからファンクラブの組織とサービス全体の改善を行いました。

- 社内での戦略を見直さなければならない機会だったということですね。
大規模なシステム導入を決められるポイントになったことはなんだと思われますか?

金木氏 当時の上司は、先ほど今西さんがおっしゃったとおり、統合システムを導入することでこれくらいの効果が出る、3ヵ年計画でこれだけ収益を出すという事業戦略を打ち出しました。さらに、2012年当時、他球団さんは非常に先行しており、スワローズは他球団に比べてシステム的に遅れているという話をして社長を説得したと聞いています。

- 短期的ではない中期的な事業戦略と、現状把握がポイントになったということですね。実際に、データ活用などを含めどんなことから始められたのですか。

金木氏 まずは現状把握から取り組みました。事前に聞いていたことがほんとうに課題なのかというところを、もう一度プロジェクトメンバー全員で現状把握を行い、その上で最終的にどこに持って行きたいかという球団の意思確認を行いました。
データが活きたかと言うと、当時データらしいデータを球団が持っていなかったことが逆に活かせたというのはありますね。なにもわかっていないということがわかったという。

- データがないことで、逆にいちから改善していくという方向性ができたということですね。

CRMやNPSに対して思うこと

- 今弊社のサービスをご利用いただいていますが、率直にCRMとかNPSについてどのように思われているのかについて、システムを変えようと思った経緯からお話をおうかがいできればと思います。

金木氏 ヤクルト球団では、それまでメール配信の効果について懐疑的なイメージがあったこと、当時導入していたメール配信システムの使い勝手があまりよくなかったという2つの理由からメールマーケティングを行っていませんでした。しかし、会員は増やしていかなければならない、継続者も増やしていかなければならないということで、片野さんともいろいろお話をさせていただいて、2014年に継続者向上の施策としてメールマーケティングを行いました。いざふたを開けてみたところ、開封率、クリック率、コンバージョンともに想像以上の数字が出ました。メールってこんなに効果があるんだと、説明した上司も驚いていましたね。それが派生していって、今はチーム全体にメールマーケティングの効果について認識が広がっています。
ファンへのアンケートについては、wizpraさんのアンケートは結果が数値化されて非常にわかりやすく、満足しています。中でも一番よかったなと思うのは、テキストマイニングの部分です。レギュラー会員の価格の見直しについて、こちらの思い通りにお客様が反応してくれたことがwizpraさんのレポートからわかりました。

- メールの購買データから、例えばメールを送るタイミングによって購買がどれくらい伸びるのか、会員ランクによる購買のサイクルの違いなども見えてきていますよね。CRMを進めていく中で、なにか社内で変化はありましたか。

金木氏 メールを送ると何かしらの効果が返ってくるという認識ができました。部署内はもちろん、社内の別部署でも認識が広がっています。例えば、今年は初めてとあるTシャツの販売をHTMLメールで訴求したのですが、開封・クリックはもちろんコンバージョン(購買)が非常に高い結果が出ました。会員様がグッズを買うというサイクルはメールとの親和性が高いということがわかったので、新たな商品の販売を計画しています。

また、コンサルティングや分析のプロにきちんと話をしていただいたことで、僕らとしてはハラオチがしやすかったというのが非常に大きかったです。社内で初の事例だとなかなか手が出しにくい部分でも、例えば他球団さんですでにやっていますとお話しいただけるのは、社内説得に関して有効打になると感じています。

NPSの指標については正直まだ判断しづらい部分もありますが、過去実施したことのある座席の価格度満足度調査についても、NPSを用いて価格設定の参考になるような調査ができればと思っています。

今後の展開

- では、今後の展開についてお聞かせいただければと思います。

金木氏 ファンクラブとしては来シーズンも黒字収益を上げていくために、昨年同様に継続率を上げていく、継続のお客様を伸ばさなければならないという宿命があります。引き続きシナジーマーケティングさんのご支援をいただきながら、離反防止も含めて継続のお客様を確保していくことをやってきたいと考えています。

他方、継続のお客様を増やすだけではどうしても全体の母数は増えていかないので、新規のお客様も増やしていかなければいけない。今の無料会員を含めて8万人強の会員については、そこからの継続やアップグレード施策は現在保持しているデータを使えばいろいろ考えられます。ですが、新規のお客様を獲得するのは非常に難しいということを感じています。ここに関してはYahoo! DMPの活用など、タイミングを含めて考えています。

あとは、来シーズンの入会記念品のアイテムや来場促進のイベント、ファンの方へのサービスという部分に、7月に実施したwizpraさんのファンクラブ向けのアンケート調査の結果を反映しています。施策に関して、どれくらい反応があるのか、数値でどう返ってくるのかは楽しみな部分であり、ちょっと怖い部分でもあります。今は順調に拡大しているファンクラブですが、これからも、チームの成績にかかわらず需要が安定して拡大していくところを目指しています。

今西氏 われわれも一緒にやらせていただく企業様の課題解決に対して取り組んでいきたいと思いますので、今後もいろいろと忌憚のないご意見を言っていただけたら幸いです。

- 本日はありがとうございました。

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。

株式会社ヤクルト球団
金木 寛之 氏

2014年からファンクラブ企画・運営を担当。他部署との連携を図りファンクラブ会員のロイヤルティー向上に務める。

株式会社wizpra
今西 良光 氏

日立製作所で官公庁向けの営業やコンサルを担当したのち、ファーストリテイリングに転職。ユニクロの店舗マネジメントなどを手がけた。その後、起業のために早稲田大学MBAに通い、そこで出会った飯尾礼治さんと協同で2013年3月に「wizpra」を創業。

株式会社ヤクルト球団

プロスポーツクラブのCRM。スポーツクラブの事業運営のノウハウや事例、スポーツビジネスへの新たな取り組みなどをご紹介。