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復興に頼らない新たな価値を生むために
ユーザー視点を目指したリブランディング
2011年3月に発生した東日本大震災に際して、「ITを使って復興支援を」との思いを持ったYahoo! JAPANは「復興デパートメント」に参画しました。復興デパートメントは、自然豊かな地域で育まれた農作物や海産物、こだわりの伝統工芸品など東北の魅力的な商品を販売するプラットフォームとなり、東北のお店と全国各地のお客様を繋げることに成功しました。
震災から5年の月日が流れ、Yahoo! JAPANは改めて「自分たちに何ができるのか、復興デパートメントをどうすべきなのか」を問い直し、2016年7月11日、復興デパートメントを全面リブランディングした「東北エールマーケット」をオープンしました。今回は、リブランディングの背景やリブランディングにあたって大切にしたことについてお話を伺いました。
-INTERVIEW-(写真右より)
小玉 弘子 氏
ヤフー株式会社 社会貢献推進室 東北共創
中屋 祐輔
シナジーマーケティング株式会社 東日本事業部 ヤフー株式会社 社会貢献推進室 東北共創
※部署名・役職は取材当時(2016年7月)のものです
脱・「復興」のため、ユーザー目線のサービスへ
―今回、リブランディングということで名称・サイトデザイン・ロゴと多くのものがリニューアルされています。まずはリブランディングの背景から教えてください。
小玉氏 一番大きいのは、「復興」訴求を変えるためです。震災から5年が経ち、現地でも復興という言葉は使われなくなってきている状況の中で、打ち出し方を変える必要性を強く感じていました。
もう一つは、これまで以上にユーザー側を意識したサービスにするためです。今まで、東北の方やストアに出店されている方と一緒にサービスを充実させてきました。震災から5年が経ち、今回の復興という言葉自体を見直すタイミングで時代の変化に対応するためにも、ストア側だけでなくユーザーの目線に立ち、ユーザーの声にもより耳を傾けるべきだと考えました。そして、シナジーマーケティングの知見をお借りして、まずはユーザーの声を集めるアンケートを実施しました。
中屋 Yahoo! JAPANのアセットを最大限に活かすためにも、アンケートは復興デパートメントの利用者に限らず、Yahoo! クラウドソーシングの会員やFacebookでの呼びかけなどを通じて幅広い対象に実施しています。
顧客それぞれの価値観を把握し、顧客の本質理解を可能にする弊社のSocietas(ソシエタス)アンケートを用いて、消費に関する質問や震災・復興に対する考え方、そして復興デパートメントの利用経験などのアンケートを取りました。アンケート結果から、ターゲットとすべきペルソナが3通り(男性2名、女性1名)浮かび上がってきました。
ワークショップで共通認識を醸成し、誰もが納得のペルソナが完成
―なるほど。そのペルソナを軸にリブランディング施策を進めていったのでしょうか。
中屋 施策設計に移る前に、ペルソナに関する理解を深めるためのワークショップを実施しています。今回のプロジェクトはヤフー社内外含め総勢18名のメンバーが関わっていて、メンバーも多い場合は特に全員で納得してペルソナを決定することが重要です。
ワークショップでは、メンバー各自が3通りのペルソナそれぞれから連想できる画像、たとえばその人が好みそうなものなどを事前にリサーチをしたうえで持ち寄り、共感したりこれは違うのではないかとディスカッションを重ねることで、各ペルソナの輪郭をよりくっきりとさせていきました。
小玉氏 ワークショップを通して「復興デパートメントの優良顧客になりえるのは誰だろう?」と考えていき、最終的には『杏さん』と名付けた女性にたどり着きました。食や自分が使うものへのこだわりが強く、「ほかの店で手に入らない商品がある」観点から復興デパートメントに価値を感じてくださっている方です。
女性の方が男性よりクチコミを広める力が強いという面で、一番裾野の広い層だと感じたことも選んだ理由のひとつです。他2つのペルソナに関しては、どことなく自社の社員と似ていたり(笑)、飽きっぽいので継続して購入していただけなさそうだったり…という傾向も見えてきて、杏さんに絞りました。以降、通称『杏ちゃん』としてみんなに親しまれています。
徹底したビジュアル化で根付かせた「杏ちゃん」が、意思決定の軸になる
中屋 そして合意の取れたペルソナ像を、テキストだけではなくビジュアルに落としていったものが顧客カルテです。
カルテ自体のデザインにはかなりこだわり、普段から傍に貼っておいて、メンバーが一目見ただけで杏ちゃんの特徴を理解できるような見やすさ・わかりやすさを重視しています。
また、杏ちゃんの憧れの人、よく見るメディア、好きなブランドなどの写真で埋め尽くしたフォトエスノグラフィーも作成しました。テキストだけでペルソナの特徴を書き並べてしまった場合、同じテキストを見ても各人のバックグラウンドによって別々のイメージを抱いてしまうことがあり、認識のズレが生まれてしまいます。メンバー皆が同じものをイメージできるように、徹底的にビジュアル化にこだわりました。
小玉氏 この顧客カルテは、もちろんリニューアル後のサイトデザインにも大いに活用しています。具体的には、杏ちゃんに似た方を集めてユーザーインタビューやユーザーテストをおこない、どのようなサイトの遷移を行うのかを検証しました。
検証結果として興味深かったことは、杏ちゃんは写真だけをひたすらクリックして見ていくという点です。これは、杏ちゃんがinstagramのヘビーユーザーという背景も関連していると思います。そのため、リニューアル後のサイトでは、テキストエリアを少なくして写真での訴求を意識しています。今後、サイトリニューアルのタイミングに合わせて杏ちゃんがよく見ているinstagramでの情報発信も始めることにしています。
杏ちゃんは今のところまだまだ仮説にすぎない部分もあるので、リニューアル後も継続して検証していき、リアルな杏ちゃん像を作っていきたいです。
中屋 サイトのリニューアルだけでなく他の施策もどんどん構想中ですもんね。
小玉氏 はい、杏ちゃんはリアルのつながりを重視される方なのでこれまで取り組んだことのなかったリアルイベントの実施や、ノベルティの制作に向けても動いています。第一弾のノベルティは杏ちゃんが日常使いしてくれそうなエコバッグにする予定ですが、施策やタッチポイントを考える上でも顧客カルテが大いに役立っています。
復興支援のための消費ではなく、豊かな消費体験が自然と支援に繋がるように
―今回、ペルソナを皆で決め顧客カルテを作成してよかった点はどこですか?
小玉氏 メンバー間で共通の判断軸ができて、意思決定がしやすくなった点です。いろいろな意見が出たとしても、皆で「これで杏ちゃんは喜ぶかなあ?」「それって杏ちゃんが求めてるものだっけ?」という点に立ち返って判断ができています。これまではメンバーの入れ替えも多く、メンバー間での復興デパートメントに関する認識もバラバラだったのですが、共通の軸を持てたことで皆が迷いなくサービスを作っていける土台が築けました。
ユーザーに喜んでいただけるサービスを作るためには、まずは作る側が思いを重ねてワクワクしながら作っていくことが重要だと思うので、共通認識を作ることができて本当によかったです。
中屋 顧客カルテは、ロゴをデザインしてくださったれもんらいふの千原さんやコピーライターの小藥さんにも事前にしっかり共有しておきましたよね。
小玉氏 作成いただいたロゴをあてはめてみたらサイトのトーンにピッタリで、驚きました。素晴らしいロゴやコピーを作っていただけたのも、共通認識があったおかげです。
―最後に「東北エールマーケット」へ寄せる思いを教えてください。
小玉氏 これまでは、「復興支援のために何かを買おう」「買うことが復興支援に繋がればいいな」といった思いから買ってくださる方が多かったため、売上が3月に偏っていたり、買ってくださる方の多くが東北に地縁のある方だったりもしていました。
これを今後は、「いいものを買ったら、復興支援ができていた」に変えていきたいです。だからこそ、復興を主語にせず、ユーザーから今何が求められているのか、どんなことが喜ばれるのかを追求していきたいなと考えています。
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。