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生活者理解に基づく、コ・クリエーション型商品開発
〜よしの味噌×コニカミノルタ×シナジーマーケティングの共同プロジェクト〜
メーカーが新商品を開発する際、「コンセプト」を明確にした上でコミュニケーションシナリオを検討することが最も重要なポイントといえます。そのためには、ターゲットの性格や人となりを理解した上で、どのような「表現」がポジティブに受け止められ、どのような「期待」を持つのか?を把握する必要があります。また「期待」と「体験」にギャップがあるとリピートにつながらないため、これらも同時に理解する必要があります。
今回、広島県呉市の老舗みそ蔵元であるよしの味噌の新商品開発に、特殊印刷技術を持つコニカミノルタと、消費者の心理特性を把握する独自ノウハウを持ち、企業のマーケティング全般を支援しているシナジーマーケティングが参画。ターゲットのサイコグラフィックを把握した上でコンセプトメイキングし、受容されるパッケージデザインにまで落とし込みました。そのプロジェクトの経緯や内容をご紹介します。
▼メンバー
野間 雅則 氏
よしの味噌株式会社 代表取締役
浦谷 勝一 氏
コニカミノルタ株式会社 開発統括本部 ビジネスグループリーダー
鶴見 裕也 氏
スペアミント 代表 グラフィックデザイナー
(株式会社ユウクリ 提携デザイナー)
和田 直之
シナジーマーケティング株式会社 企画制作部 マーケティングプロデューサー
※部署名・役職は取材当時(2020年3月)のものです
売り上げ半減 どん底を経験したよしの味噌の「進化」
プロダクトアウトからマーケットインへ
よしの味噌は、1917年創業の、広島県呉市で最古参のみそ蔵元です。戦時中には呉海軍工廠にも味噌を納入し、軍人の栄養補給にも寄与。高度成長期とともに生産量は増えていきました。しかし、食の欧米化や多様化から味噌の消費が右肩下がりに。1998年をピークに毎年3〜5%売り上げが減少していきます。
2001年、法人設立とともに現社長である野間雅則氏が社長に就任し、若い世代にも親しんでもらえるようにと味噌加工品も作るようになりました。しかし、思うようには売れず、2013年には売り上げがピーク時の50%まで減少。翌年、翌々年も売り上げは前年を下回ります。
転機となったのは、広島県の中小企業支援機関が主催した「販売戦略塾」を受講したこと。基礎的な販路開拓・商品開発フロー・原価計算・プロモーションなどを初めて体系的に学んだのです。
「受講前は、自社の都合で作った商品をなるべく多くの人に買ってもらいたいというプロダクトアウト的な考えであり、市場調査は行わず、ひらめきや流行からの思い付きで商品開発を行っていました。しかし、『顧客視点で商品開発を行い、顧客が求めているものを作る』マーケットインの発想を持つことが、中小企業の生き残るカギだと気付いたのです。」(よしの味噌・野間氏)
そうした学びを生かして、生まれたのが「広島れもん鍋のもと」です。販売チャネルを高級スーパーや百貨店などに絞り込み、プロモーションに注力した結果、広島県内のメディアで話題になり、発売初年度に売り上げ約5万袋を達成します。徐々に全国での知名度も広がり、人気番組「マツコの知らない世界」で紹介され、問い合わせが殺到する人気商品となりました。
顧客の心理特性、行動を捉える新商品とは
そんなよしの味噌は2019年、お土産や自分へのプレゼントの用途に買ってもらえるような、広島県の特産品・牡蠣を用いた缶詰を開発することを決めます。これまで新商品開発の際には、地元の知人とともにネーミングやパッケージデザインを考えてきたよしの味噌ですが、今回はこれまでの考え方とは一新したいという思いもあり、特殊印刷技術を持つコニカミノルタにたどり着きます。
「コニカミノルタさんは、早くから牡蠣缶の競合調査に取り掛かってくださっていて、最初にお会いしたときから価格動向や売れ筋のデザインなど多くの情報を提供してくれました。これまでは、パッケージデザインにおいて新たなチャレンジをする機会が無かったのですが、コニカミノルタさんと取り組めば、よりマーケティングの考えを取り入れたパッケージデザインが実現できるのではないかと期待が高まったのです。」(よしの味噌・野間氏)
一方、コニカミノルタにとってもこのプロジェクトは新たなチャレンジでした。パッケージの特殊印刷技術は持っているものの、マーケティングからメーカーと一緒に取り組むケースは稀有だったためです。本取り組みの開始時を思い返して、コニカミノルタの浦谷氏はこう語ります。
「パッケージ印刷の部分だけではなく、コンセプト設計からパッケージのデザイン、さらに完成した商品を売るところまで全体に携わることで、当社が提案できる範囲も広がり社員が成長できるのではないかという期待がありました。会社を動かし、変えるためのひとつのきっかけになればという思いもあり、チャレンジを決めたのです。」(コニカミノルタ・浦谷氏)
コニカミノルタは、競合調査を深めるほど、マーケティングの重要性を再認識し、専門家とコラボする必要があると感じるようになったといいます。
「泥臭い競合調査は私たちが担えます。しかし、どのようなターゲットに商品を届けるのか、どうすればターゲットに受け入れられるデザインやメッセージングができるのかという部分を突き詰めるには、信頼できるデータやロジックが必要だと思いました。そうして生体計測などさまざまな手法を調査する中で、出会ったのがシナジーマーケティングです。和田さんから白鶴酒造様の事例や消費者の心理特性と行動特徴を類型化したSocietasについての話を伺い、ぜひ一緒に取り組みを進めていただきたいと思いました」(コニカミノルタ・浦谷氏)
こうして、シナジーマーケティングがプロジェクトに参画することになり、共同で商品開発を進めていくことになったのです。
1. 基本リサーチ[Webアンケート]
商品と親和性の高い心理特性を有するユーザー層を知る
牡蠣缶のターゲットを決めるにあたり、シナジーマーケティングは保有する1,400万人のパネルに対してまずアンケートを実施。内容は、缶詰への関心度合いや旅先でどのようなお土産を買うのかを中心としたものですが、これに加えて、Societas(ソシエタス)を把握するための設問も盛り込みました。
- 顧客のライフスタイル、価値観、感情、行動で類型化したもの
- マーケティングデータからお客様の心を理解する「ものさし」
- 価値観や構想の要因となる「特性パターン」で、日本人を分類
- 顧客の行動・嗜好の本質を理解するための手がかりとなる
「たとえば、旅先でよくお土産を買うかどうか?などの直接的な問いはアンケートから回答を得られます。しかし、お土産を贈る行為ひとつをとっても、純粋に人に喜んでもらいたいという思いから贈る人もいれば、おしゃれなものを知っているとアピールするために贈る人もいます。このような、通常のアンケートでは拾い切れない、行動の背景にある心理特性(性格のようなもの)を浮き彫りにするのがSocietasです。」(シナジーマーケティング・和田)
そして、フォーカスを絞り過ぎない塩梅でアンケート設計を行い、約1,000人から得られた回答をもとに、社会一般的なSocietasのボリューム(当社保有の統計情報)と比較・傾向を把握し、ターゲットとすべきSocietas(以後ターゲットSocietas)を3タイプに絞り込みました。さらに、3つのターゲットSocietasの心理特性を直観的に理解・共有できるように、当社保有のSocietasに紐づく情報と、今回のアンケートで取得した情報と掛け合わせる形でSocietasペルソナを構築しました。
2. 商品案作成[コ・クリエーション型ワークショップ]
多様なメンバー構成でコンセプト、コミュニケーションシナリオに基づき商品案を作成する
3タイプのターゲットSocietas決定後、プロジェクト関係者一同が集まりワークショップを実施しました。内容は、3グループに分かれ(ターゲットSocietasが3タイプあるため)、Societasペルソナの情報を中心に、人となりや行動特徴などの理解を深め、構築した仮設のコンセプトをブラッシュアップし、最適なアプローチ方法やメッセージング、パッケージデザイン案を考えていくというものです。
「当プロジェクトにはデザイナーの鶴見さんにも参加していただき、『ワークショップで感じた顧客像をターゲットとして、各グループから出たデザイン案をベースにサンプルデザインを制作してください』と依頼しました。」(シナジーマーケティング・和田)
よしの味噌にとってもコニカミノルタにとっても、こうしたワークショップへの参加は初めて。ワークショップ開始前こそ不安を抱えていたそうですが、いざ始まると、グループごとに議論しながらターゲットSocietasの理解を深め、案を出し合っていました。
「デザインやコピーライティングに関しては素人のメンバーたちが、パッケージデザイン案を作ることができるのか不安でしたが、Societasペルソナの情報が豊富であったこと、メンバー間で意見が割れたときには和田さんがうまくファシリテートしてくれたこともあり、無事に案をまとめることができました。」(コニカミノルタ・浦谷氏)
「これまで商品開発の際には、“20代~40代の流行に敏感な女性”といった粒度でターゲット設定をしていたので、消費者を心理特性ごとに分類することと、その「人となり」を明確に理解できるSocietasペルソナの情報の細かさに驚きました。そして、ターゲットを深掘りして販売チャネルやアプローチ方法を考えることの重要性を改めて教えていただきました。」(よしの味噌・野間氏)
ワークショップにより、Societasペルソナ1タイプにつき3つのデザイン(×3タイプ)=合計9つのパッケージデザイン案が生まれました。デザイナーの鶴見氏は、この案をもとにパッケージのサンプルデザイン制作に取り掛かります。鶴見氏にとっても、今回のプロセスは特殊だったといいます。
「普段、メーカーから新商品のパッケージデザインを依頼される際には、すでにメーカー側でペルソナやテーマが決められており、それらに基づいてデザインを作ります。その場合、情報はすでにまとめられた状態で、表面的な特徴描写がほとんどです。
今回のように、皆さんと一緒に顧客理解~アイデア出し~コミュニケーションシナリオ構築までの一連のプロセスを経験したのは初めてでした。Societasに紐づいている細かな心理特性からくる行動特徴などの情報は、サンプルデザイン制作の際に大きなヒントとなりました。たとえば#Aと#Bは年代や働く女性という点では似ていますが、#Aは『おしゃれな写真を撮って積極的にInstagramにアップするタイプ』である一方で、#Bは『Instagramは見るだけのタイプ』など、価値観や行動で分けるとまったく異なり、各Societasペルソナに響くデザインも大きく異なるからです。」(デザイナー・鶴見氏)
3. 商品案検証[ユーザー対象グループインタビュー]
ユーザーによる商品案(コンセプト&イメージ)を評価する
パッケージのサンプルデザイン制作後は、ターゲットSocietasと同じ心理特性を持つパネルを招集し、グループインタビューを実施(各タイプごとに6名)。心理特性がもたらす行動特徴のより深い洞察と、サンプルデザイン(レイアウト・基材・色味・コピー etc)が与える「心象」を把握します。また、実際に試食していただきパッケージデザインが誘発した「期待」と、味付けや中身のギャップなどについて確認したりしました。
インタビューを重ねる中で、3つのターゲットSocietasの中でどれを一番のターゲットとするかが決まりました。また、パッケージデザインをブラッシュアップする上での貴重な意見も多く得られたのです。
たとえば、とある案のビジュアルは「かわいい」と高評価でしたが、インタビューを進めると「人に贈りたい」「友達に見せたい」といった回答は得られにくく、口コミによる商品認知度の広がりは期待できないことがわかりました。今回の牡蠣缶は税込594円と安価ではないこともあり、実際に購入してもらうためには、第一印象で「かわいい」「きれい」と思ってもらえるデザインにすることよりも、商品のおいしさが伝わり期待感を持たせる情報を盛り込んだデザインにすることが重要だとわかったのです。
これまでのプロセスで得た知見と、インタビューで取得した情報をもとにプロジェクト関係者で情報の棚卸しを行い、最終的に「どんなパッケージにすべきか」を取りまとめていきました。
4. 商品案ブラッシュアップ[商品化]
ユーザー評価を踏まえてブラッシュアップする
そして、完成したのがこちらの商品です。商品名は、“「広島で見つけた」レモンが香る牡蠣のごちそう缶”になりました。
「完成したパッケージデザインのもとになった案は、もう少しほんわかとしたイラストだったのですが、インタビューの結果から一目でおいしさが伝わることが非常に重要な要素だとわかったため、よりシズル感を増し、おいしさが伝わるイラストにしました。また、食べるシーンが想像できることも大事な要素だとわかったので、『一手間加えて、パスタやアヒージョにして食べてもおいしいですよ』ということが直感的に伝わるデザインにしました。」(デザイナー・鶴見氏)
次は認知度を高め販売するフェーズへ
こうして、2020年2月から“「広島で見つけた」レモンが香る牡蠣のごちそう缶”は発売を開始しました。商品開発のプロジェクトは一旦完了したものの、次は牡蠣缶の認知度を高めて販売を促進するフェーズになります。三者は取り組みを振り返り、今後の展望を語りました。
「今回、魅力的な商品開発ができるよしの味噌さん、Societasなど独自のマーケティング技術を持つシナジーマーケティングと組んだことで、当社としても印刷にとどまらない新たなチャレンジができました。しかし、売れて初めて『プロジェクト成功』といえると思うので、次は販促戦略を一緒に考えていきたいです。」(コニカミノルタ・浦谷氏)
「関係者全員が、よしの味噌さんの商品を自分ごと化してターゲットへの理解を深めコミュニケーションシナリオを考えるなど、一体感を持って取り組めたことが今回のプロジェクト成功の要因だと思います。僭越ながら、私も商品の生みの親の一部になれたような気持ちです。シナジーマーケティングは『どう売るか』の領域も支援しているので、引き続き一緒に取り組んでいければと思います。」(シナジーマーケティング・和田)
「今回のプロジェクトを通して、改めてターゲットを明確にして商品開発をすることの重要性に気付きました。何より嬉しかったのは、当社の商品のことを一緒に考えてくれる仲間ができたことです。当社のような地方のメーカーは、いい商品を作ることだけに力を注ぎがちで、売れる商品にするためにはどうすればいいのかがわからないことも多いものです。コトを成すには何をするかも大事ですが誰とするかはもっと大切。だからこそ、心強いパートナーとともにマーケティング活動を行うことが大事だと思います。」(よしの味噌・野間氏)
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。