【連載:VoC統合の壁 第3回】VoC活用を止めているのは、分析力より“準備工数”だった。設問設計・リスト作成・集計に埋もれる現場の実態

こんにちは。シナジーマーケティングの和田直之です。
前回は、VoCが現場で十分に活きない大きな理由として、アンケート結果が「誰の声か」と十分につながっていないことを見てきました。
営業にも、開発にも、経営にも共有はされている。
しかし、顧客属性や購買履歴と結びついていないために、現場の判断やアクションに変わりにくい。
それが、VoCが“見られてはいるが、動かせていない”状態を生んでいる、という話でした。
では、なぜ多くの企業は、その接続や活用のところまで進めないのでしょうか。
顧客情報との紐付けが重要だということ自体は、現場でもある程度理解されているはずです。
にもかかわらず、そこまでたどり着けない。
その背景を掘り下げていくと、今回の調査ではもっと手前にある問題、つまりVoC活用を支える日々の運用負荷が浮かび上がってきます。
<目次>
全5回連載「VoC統合の壁」のテーマ一覧
全5回で扱うテーマは、次の通りです。
- 第1回:VoCは重要なのに、なぜ成果に変わらないのか
- 第2回:VoCは集めているのに、“誰の声か”が見えていない問題
- 第3回:VoC活用を止めているのは、分析力より準備工数だったという現実
- 第4回:即日共有と顧客情報との紐付けが、なぜ成果差を生むのか
- 第5回:VoCを「集計レポート」から「経営の先行指標」へ変えるロードマップ
第3回:VoC活用を止めているのは、分析力より準備工数だったという現実
VoCが進まない理由は「分析スキル不足」ではない
VoC活用が進まない理由というと、つい
「分析できる人がいない」
「データ活用の知見が足りない」
「専門スキルが不足している」
といった話に寄りがちです。
もちろん、それも一部では当てはまるでしょう。
ただ、今回の調査を見る限り、多くの企業の現場がまずつまずいているのは、もっと前段の工程です。
具体的には、設問を考えること、配信対象者を抽出すること、回答率を確保すること、集計・加工すること。
つまり、インサイトを引き出す以前の“準備と後処理”の重さです。
「設問設計・リスト作成・集計」に埋もれる現場の運用負荷
調査では、アンケートの「設計・実施・分析・活用」プロセス全体において、どのような課題やハードルを感じているかも聞いています。
その結果、最も多かったのは「効果的な設問設計が難しい」29.2%でした。
ただし、それに肉薄するように
「配信対象者の抽出・リスト作成に手間がかかる」27.4%、
「回答率が低い」24.4%、
「集計・データ加工・分析に時間がかかる」23.8%
が並んでいます。

この結果が意味しているのは、かなり重要です。
VoC活用の負担は、特定の難所だけに集中しているわけではありません。
たとえば、「設問設計だけが難しい」とか、「分析だけが大変」という話ではない。
そうではなく、設計、抽出、回収、加工、共有という流れ全体の中に、少しずつ重いポイントが分散している。
だからこそ、現場はどこか1つを改善しただけでは楽になりにくく、常に何かしらの摩擦を抱えたまま運用することになります。
なぜVoCは停滞するのか?「仕組み」より「属人的な努力」に頼る構造
この傾向は、「最も大きなハードルは何か」を1つに絞って聞いた結果でも、よりはっきり表れています。
調査では、
「効果的な設問設計が難しい」14.8%
「配信対象者の抽出・リスト作成に手間がかかる」14.0%
「回答率が低い」13.8%
「集計・データ加工・分析に時間がかかる」13.0%
と、上位4項目がほぼ横並びでした。

ここから見えてくるのは、多くの企業にとってVoC活用は「分析フェーズで難しくなる」のではなく、最初から最後まで、全体的に重いということです。
言い換えれば、VoC活用が止まりやすいのは、特別に高度なことをやろうとしているからではありません。
むしろ、日々の運用を一通り回すだけでも、相応の工数がかかっているからです。
たとえば、設問設計1つとってもそうです。
顧客の本音を引き出すには、ただ質問項目を並べればよいわけではありません。
何を聞くのか。
どこまで深く聞くのか。
定量で取るのか、自由記述を入れるのか。
誰に送るのか。
その後、どの部署で使うのか。
こうした前提が整理されていなければ、そもそも“活きるアンケート”は作れません。
しかし、その設計に十分な時間を割ける企業ばかりではありません。
そこにさらに、リスト抽出や配信準備が乗ります。
対象顧客をどう選ぶのか。
誰に、どのタイミングで送るのか。
既存顧客なのか、新規顧客なのか。
一律配信なのか、条件付き配信なのか。
そのために顧客データを整理し、対象者を抽出する工程は、思っている以上に重い。
しかもその作業は、レポートに成果として見えにくいため、現場の苦労として埋もれやすいのです。
さらに、回収後も負荷は終わりません。
集計をして、不要回答を除き、項目別に整理し、必要なら自由記述をまとめ、共有用の資料に落とし込む。
しかも、その多くが一度きりではなく、毎回繰り返される。
VoC活用を進めたいと思っていても、その前に“回すだけで手一杯”になってしまう。
この構造が、今回の調査結果からかなり明確に見えてきます。
もう1つ、注目しておきたいのが、回答率を高めるための工夫の中身です。
調査では、現在実施している工夫として、
「依頼メールの件名や本文を工夫する」32.2%
「未回答者に対してリマインドメールを送る」30.6%
が上位でした。
一方で、
「宛名や内容を顧客ごとにパーソナライズして配信する」7.8%
はかなり低い水準です。

この差は示唆的です。
多くの企業は、回答率を上げるために「件名を工夫する」「リマインドする」といった、毎回の運用努力でなんとか乗り切っています。
もちろん、そうした工夫は必要です。
ただ、それは裏返せば、仕組みで解決するより、現場の頑張りで埋めているということでもあります。
顧客ごとに文脈を持たせたパーソナライズ配信や、行動タイミングに合わせた自動送信設計のような“構造的に負荷を下げる仕組み”は、まだ一部の企業にとどまっています。
その結果、毎回のアンケート運用が、担当者の属人的な工夫に依存しやすくなる。
この状態では、担当者が変われば品質が揺れますし、継続的な改善も難しくなります。
ここで改めて考えたいのは、VoC活用の本来の価値がどこにあるかです。
VoCの本質は、アンケートを“ちゃんと回すこと”ではありません。
本当に価値があるのは、その先にある
「顧客の本音をどう引き出すか」
「どの声を、誰に、どのタイミングで届けるか」
「どうアクションに変えるか」
という部分です。
しかし現実には、設問を作る前からリスト抽出に追われ、配信後は回答率に追われ、回収後は集計と加工に追われる。
その結果、本来最も人間が時間を使うべき“問いの設計”や“アクションへの翻訳”に十分な余白が残らない。
これが、VoC活用が停滞する非常に大きな理由です。
つまり、多くの企業でVoC活用が止まりやすいのは、「分析しようとすると難しいから」ではありません。
そこにたどり着くまでに、現場の時間と集中力が削られてしまうからです。
この状態で、「もっとVoCをいかそう」とだけ言っても、現場では優先順位が上がりにくいのは当然です。
重要だとわかっていても、回すだけで精一杯。
その構造が、VoCを“ある程度活用”のまま止めています。
第3回で押さえておきたい結論は、ここです。
VoC活用が進まないのは、分析意欲が低いからではない。
設計・配信・回収・加工という準備工数が重すぎて、現場の思考時間を侵食しているからである。
そして、この運用負荷が大きいほど、当然ながら共有は遅れ、重要な声ほど埋もれやすくなります。
では、その差が最も決定的に表れるのはどこでしょうか。
次回は、即日共有の可否と顧客情報との紐付けが、どれほど大きな成果差を生んでいるのかを見ていきます。
VoCをコストで終わらせる会社と、収益に変える会社の分岐点を掘り下げます。
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