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【連載:SaaS多機能化の罠 第2回】『検索』の罠:約6割のユーザーが、効率化ツールによって時間を奪われている真実

【連載:SaaS多機能化の罠 第2回】『検索』の罠:約6割のユーザーが、効率化ツールによって時間を奪われている真実

皆様、こんにちは。シナジーマーケティングの和田直之です。 前回の第1回では、SaaS導入における現在の最大の課題が「機能が足りないこと」から「機能が多すぎること(オーバースペック)」へと明確にシフトしている事実をお伝えしました。約4割の現場が「ツールの多機能性を持て余している」というデータは、これまでの「大は小を兼ねる」というツール選定の常識が、もはや通用しなくなりつつあることを示しています。

では、機能が多すぎるツール、いわゆる「何でもできるSaaS」は、現場の日常業務にどのような影響を及ぼしているのでしょうか。

全5回で扱うテーマ

全5回で扱うテーマは、次の通りです。

  • 第1回:多機能なSaaSは、本当に現場を楽にしているのか
  • 第2回:『検索』の罠:約6割のユーザーが、効率化ツールによって時間を奪われている真実
  • 第3回:決裁者は「不足」を嘆き、現場は「過剰」に喘ぐ。埋まらない認識の断層
  • 第4回:「何でもできる」の終焉。現場が本当に求めている「等身大」の選定基準
  • 第5回:機能を削ぎ落とし、成果を最大化する。持続可能なSaaS運用へのロードマップ

「使わない機能は邪魔にならない」という決裁者の甘い見通し

「使わない機能があるだけで、別に邪魔にはならないだろう」 ツールを選定する決裁者や管理者側は、往々にしてそう考えがちです。しかし、日々システムに向き合う現場のリアルな声に耳を傾けると、事態はそう単純ではないことがわかります。

たとえば、現場で新しい施策の設定を行ったり、月末のレポートを出力したりする日のことを想像してみてください。 担当者は、目的のメニューを探して複雑な階層をクリックし続けます。使わない機能のボタンが画面を埋め尽くし、どれが正解かわからない。ヘルプセンターで検索をかけても、専門用語が並んだ分厚いオンラインマニュアルが表示されるだけで、自分のやりたい手順にたどり着けない。結局、サポートデスクに問い合わせたり、詳しい同僚を捕まえて聞いたりして、本来なら数分で終わるはずの作業に30分、40分と時間が溶けていく……。 皆様の職場でも、似たような光景を見たことはないでしょうか。

多機能化が現場に強いている「見えないコスト」の正体

本来、SaaSツールは業務を「速く、楽にする」ために導入されます。しかし今回の調査では、その大前提を揺るがすようなショッキングな事実が明らかになりました。 「ツールの操作方法を調べたり、使い方がわからず悩んだりすることに、1週間あたり合計何時間ほど使っているか」という問いに対し、「ほぼない(0時間)」と答えられたユーザーは42.0%にとどまりました。

裏を返せば、残りの58.0%(約6割)のユーザーが、毎週何らかの時間を「ツールの操作方法を調べること」に奪われているのです。 さらに内訳を見ると、単なる数分の迷いではありません。「週1時間〜3時間未満」が15.6%、「週3時間〜5時間未満」が5.2%、「週5時間以上」が0.4%となり、合計で21.2%(5人に1人以上)が週に1時間以上の深刻な「操作ロス」を抱えています

58.0%(約6割)のユーザーが、毎週何らかの時間を「ツールの操作方法を調べること」に奪われている

この「ちょっと操作をマニュアルで調べる時間」や「設定画面のどこに目的のボタンがあるかを探す時間」。一人ひとりの1回あたりの時間はわずかに見えるかもしれません。 しかし、これは業務効率化のために投資をしたはずが、逆に現場へ複雑な操作を強いることで発生している、いわば「サイレント・タックス(見えない税金)」です。多機能であればあるほど、メニューは階層化され、設定項目は増え、現場は「目的の機能」にたどり着くまでの迷宮を彷徨うことになります。全社員のこの「操作ロス時間」を人件費に換算すれば、経営に与えるインパクトは決して小さくありません。しかし、私が日々の支援の中で最も危機感を覚えているのは、こうした「時間の損失」ではありません。

「使いこなせない自分が悪い」――ツールが奪う現場の自己効力感

多機能ツールが現場から奪っている本当に恐ろしいものは、現場の「自己効力感(自信)」です。

システムが複雑で操作に迷ったとき、現場のユーザーはどのように感じるのでしょうか。 調査で「操作がわからず業務が止まった際の感情」を聞いたところ、「使いにくいツールに対して苛立ちを感じる」という回答は21.6%でした。しかし、それを上回って最も多かったのは、「使いこなせない自分の知識不足だと落ち込む(罪悪感・自己否定)」の26.0%だったのです。

「使いこなせない自分の知識不足だと落ち込む(罪悪感・自己否定)」が26.0%

このデータが示す現実は、非常に深刻です。 本来、どこに何があるかわからない複雑なインターフェースや、現在の業務には不要な過剰な機能の詰め込みは、ツール側の問題であり、そのツールを選定した組織側の問題です。 しかし、現場で日々業務と向き合う真面目な担当者ほど、「皆が使っている有名な最新ツールを使いこなせない自分が悪いんだ」「自分のITリテラシーが低いせいだ」と、システム起因のつまずきを自己責任化し、精神的な負荷を一人で抱え込んでしまうのです。

さらにクロス集計で深掘りすると、この「自己否定」は操作ロス時間が長引くほど悪化することがわかっています。 週に1時間未満のロス層では自己否定は32.6%ですが、週に3時間〜5時間の深刻なロスを抱える層になると、自己否定は46.2%に跳ね上がります。苛立ち(30.8%)などのネガティブ感情の合計は77.0%にまで達し、ロス時間が大きい層ほど、感情的な消耗が極めて強いことがうかがえます。

シリーズ第2回の結論:多機能化がもたらす操作ロスは「心理的負債」となり、組織のDXを内側から蝕む

長時間ツールと格闘し、結局わからずに自己嫌悪に陥る。この状態が続けばどうなるでしょうか。 現場は、新しい施策へのチャレンジを避けるようになります。「どうせ新しい設定をしようとすると、またマニュアルと格闘して時間を無駄にするから」「自分には無理だから」と、ツールの最低限の機能だけを使い、それ以上の活用を諦めてしまうのです。これは現場のモチベーション低下にとどまらず、組織のDX(デジタルトランスフォーメーション)文化そのものを内側から破壊する「学習性無力感」の引き金になりかねません。

第2回で押さえておきたい結論は、ここです。 多機能なツールが現場から奪っているのは、単なる「時間」だけではない。複雑さがもたらす操作ロスは、現場の自信を削ぎ、自己否定を生む「心理的負債」として組織を静かに蝕んでいる。

「何でもできるツール」が、現場を「何もできない」という無力感に追い込んでいるとしたら、これほどの悲劇はありません。

では、なぜ現場がここまで疲弊し、毎週時間を奪われているにもかかわらず、企業は「身の丈に合わない多機能ツール」を使い続けてしまうのでしょうか。別のツールに乗り換えようという力学が働かないのはなぜか。 次回、第3回「決裁者は『不足』を嘆き、現場は『過剰』に喘ぐ」では、ツール見直しを阻む組織の構造的要因、すなわち「決裁者と現場の致命的な認識の断層」に迫ります。

SaaSツール利用に関する統計調査2026

多機能化するSaaSツールの理想と現実

SaaSツール利用に関する統計調査2026

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