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BtoBマーケティングにおける「ペルソナ」活用のポイント(後編)

前編ではBtoBにおける「ペルソナ」の課題をお伝えしました。後編では、当社の事例をもとに制作・運用のポイントを紹介します。

シナジーマーケティングのペルソナ活用における課題

当社では、これまで製品開発やプロモーション企画など各部門ごとにペルソナを制作・運用してきました。私は人間中心設計(HCD)の専門家として各ペルソナ活用を支援してきましたが、それらを通じていくつかの課題が残っていました。

1. 共感と効率の両立

複数部門またはプロジェクトごとに制作されたペルソナは、同じサービスなので当然のごとくよく似ていました。また、各部門で制作したペルソナを参考に別部署やプロジェクトで用いようとしても、共感されず活用されることはありませんでした。

プロジェクトメンバーの共感を醸成するために、プロジェクトごとにペルソナを制作する(または見直す)行程は重要です。しかし、ゼロから調査分析をするのは時間がかかりますし、せっかくこれまで制作されてきたペルソナが活かせないのは非効率です。

そのような経験から、共感を醸成しつつも効率化できないものかと考えるようになりました。

2. 製品・サービスの全体品質向上のために

多くの企業では、お客様は同じでも、企業都合で顧客接点が分かれています。当社も同様に、プロモーション、セールス、製品、サポート・・・と部門が分かれています。このように部門が分かれていると、一連の顧客接点に矛盾が生じることが少なくありません。

例えば、開発部門は「作りたいモノ」、プロモーション部門は「売りやすいモノ」という視点で設計・制作されます。そうして完成した製品や販促物では、お客様からすると「できると期待していたこと」と「使ってみてできること」にギャップが生じるのも仕方がありません。こういったギャップが、企業が提供するサービス全体の品質の低下につながります。

このギャップを軽減し高品質のサービスを提供するためには、「誰にどのような価値を提供するのか」を多部門で意識共有する必要があります。その「誰に」を表現するものがペルソナです。そこで当社では、部門間で共通認識できる地図のようなペルソナを制作・運用するためのプロジェクトを立ち上げました。

果たして、ペルソナが社員300名規模の中小企業である当社の全体品質向上につながったのか。
その結果はまだまだ先ですが、これまでバラバラに活動していた部門が協力して、上司に指示されることなく自主的に問題解決にあたる例が複数見られました。また、ペルソナ活用はプロジェクト終了から半年以上経った今も続いています。

次の章からは、部署間共通のペルソナ制作・運用のポイントと、BtoBならではのコツをお伝えします。

BtoB企業におけるペルソナ制作のポイント

1. あらゆる部署、立場の人を巻き込む

ある部門だけで制作したペルソナを共有するだけでは、共感を得ることはできません。そこで、制作行程のあらゆる場面で、全部門のあらゆる立場(実務層、管理層、経営層)を巻き込むことを重視しました。

プロジェクト開始時には12部門の部署があり、そのうち10部門が顧客接点のある部門だったため、

  • プロジェクトのコアメンバーに5部門7名を結集
  • 調査は顧客接点をもっている全ての部門(10部門)から、部内外への影響力が大きいキーマン13名をリクルーティング
  • 経営幹部へのレビューを実施

など、ペルソナ制作の過程においてあらゆる部門と立場の人の意見を取り入れました。こうすることで、「他人が知らぬところで作ったペルソナ」ではなく「自分たちで作ったペルソナ」に近づきます。

2. ユーザー調査の工夫

BtoCと違って、実際のユーザーをリクルーティングすることが難しいというBtoBの特徴を前編で紹介しました。
そのため、関係性が良好なお客様へインタビュー協力を依頼することが度々ありますが、1・2社しか実施することができず、情報の偏りの懸念が拭えません。

そこでお勧めしたいのが、営業やサポート部門などの顧客接点がある部門への間接インタビューです。
社内への間接インタビューを実施することで、ペルソナの目的を社内へ啓蒙することもでき、また社員自身の情報がペルソナに反映されることで、自分事としてペルソナに向き合ってもらえるきっかけにもなります。そのような効果も狙って、間接インタビュー対象者は顧客接点が多い社員の中でも、その部門に影響力の高い人に協力を仰ぐのがいいでしょう。

231_tokumi_02営業担当者への間接インタビューの様子

3. BtoBならではのペルソナ表現

組織ペルソナと個人ペルソナ

BtoCの製品・サービスでも、衣服や化粧品など利用者自身が購入するものもあれば、家や旅行など利用者や購買ルートが複数存在する場合があります。後者の場合、個人のペルソナだけでなく、どのような家族構成なのか、「家族」という「組織」のペルソナも表現します。

BtoBではこの「組織」の考え方が外せません。必ず、組織ペルソナと個人ペルソナをセットで制作する必要があります。

※医療機器を製造・販売するシスメックスでは、さらにどのような病院や研究所の施設に導入されるのかがキーとなるため、施設ペルソナも制作されています。

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ペルソナの項目

ペルソナでは、製品やサービスに対するニーズだけでなく、その人が人生で何を成し遂げたいのかといったライフゴールや、その人となりを表すためのプロフィールを表現します。

家族という組織の場合、父親という立場がその人のライフゴールに大きく影響するように、法人ペルソナでも所属する組織の目標や役職が重要な情報となります。

具体的には、以下のような項目を設定するといいでしょう。

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4. 複雑な顧客接点を1枚で表現

組織ペルソナのカスタマージャーニーマップを制作し、そこに各担当者(個人ペルソナ)をプロットします。
関係性をわかりやすくするために、全体像は1枚で表現するといいでしょう。また、当社では組織ペルソナが締める売上割合やユーザー数も掲載することで、社員が興味をもって見てもらえるような工夫をしています。

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ペルソナ活用のポイント

1. 社内公開にも一工夫

企画書や調査レポートを丁寧に制作しても、活用されなかったという経験はないでしょうか?情報量が多い資料は机の中にしまわれてしまい目に付く機会が少なく忘れられがちです。ペルソナも例外ではありません。

そこで、A0ポスター1枚に情報をまとめ、5枚印刷して各部門が目につくところに貼り出しました。貼り出すと同時に、個人資料としても活用できるように制作したA3のダウンロード資料を全社員に告知しました。

さらに活用促進を図るため、製品販売3部門、開発部門、サポート部門、関連サービス2部門それぞれの部門に対してレビュー会をし、説明と活用のためのディスカッションを実施しました。

231_tokumi_01レビュー会の様子

2. ペルソナの運用

1枚で表現したペルソナは、地図でいうと世界地図のような抽象度です。ペルソナを活用して戦略を立てるためには、一覧からターゲットを選定し、さらに詳細なペルソナを作る必要があります。

旅に例えると、世界地図から地域を選ぶ行為に値するのが、3で制作した組織ペルソナ・担当者ペルソナの全体を1枚に表現した図からターゲットを絞る行為です。さらに、その土地の情報を集めて行きたい場所のマップを制作するのが、戦略レベルのペルソナと言えます。その地図をもとに、「◯日のお昼はこのお店でご飯を食べよう」「お土産は帰りの前日にこの辺りでお買い物しよう」などと計画を立てるのが、施策設計にあたります。

また、詳細ペルソナを制作をすることで、3の全体像に足りない情報や違和感を発見することができます。そういった情報を全体像に反映します。なお、一覧を常に更新することも重要です。

231_tokumi_06ペルソナ一覧と、プロジェクトごとに制作したペルソナ

結果

A0ポスターを全社員が見える位置に張り出していたにも関わらず、A3版の資料は全社員の約40%にダウンロードされ、その利用者の所属は当社の全部門に分散されており、多部門に認知されることになりました(2015年11月10日時点)

また、主体的にペルソナを活用して顧客視点の施策を企画・実施されるケースも。
具体的には、会議の際に「◯◯さんが喜ぶ提供価値は?」「◯◯さんの言葉に置き換えると?」など、自社都合のストーリーや表現を、お客様視点に置き換えた議論が活発化している場面に出くわすことが多くなりました。

さらに、当社は各部門の責任範囲で業務を遂行する文化でしたが、ペルソナを活用しているプロジェクトでは顧客接点や目的が近い部門と協働することが増えました。

上記のようにペルソナを活用しはじめた社員の声を、一部ご紹介します。

いままでは真っ白な状態からだったので、筆を進めることができなかったが、うちのプロダクトはこういう風に使われているというユースケースとターゲットがまとまっているので、それを切り口にサイトでどう動くか想像してみようという思考の切り口ができ、はじめの一歩が踏み出せるようになった。
(新サービスのプロモーション企画/マネージャー)

今回の社内事例はライティングチームにとってもいい事例になりました。ライター2人も共通のペルソナがあったので協働して表現することができ、共通のペルソナがあるので依頼者も評価することができました。それがないと、あれもこれも盛り込んで、となってしまうんですよね。
(新オプションサービス企画/ライター)

担当者間で共通認識ができ、件名や本文の言葉選びなどで議論しやすくなった。
(メルマガ作成/マネージャー)

BtoBの場合はステークホルダーが多く、ターゲットを絞る(明確にする)ことが難しいため「誰に向けた何のためのコンテンツなのか」が不明瞭なまま、手探りで各施策に取り組むことが多かった。ペルソナを制作したことで、メンバー全員で共通認識が持てるようになり、例えば、以下のようないい変化があった。

  • LPやサイト、広告原稿、メルマガなど、シナリオ(仮説)を元に制作できるようになった
  • 合わせて、ライティングやデザインもしやすくなった
  • 迷った時には立ち戻れる(誰に、どんな目的で訴求するか)
  • 上に確認、承認を取りやすくなった
  • 結果を振り返るときは、何を軸に検証すればよいかわかるようになった

(製品LP作成・製品サイト改修・メルマガ作成/Webディレクター)

最後に

ペルソナは深い共感が必要であるため、プロジェクトごとにメンバー参加型で制作するのがよいでしょう。しかし、プロジェクトが変わり、メンバーが変わるとそのナレッジが継承されないことはペルソナの課題でもあります。

全体と部分を常にいったりきたりしながら、全体像を更新しつづけることで、ペルソナが企業の全体の共有知となれないだろうか。そういった期待を込めて、当社も引き続き試行錯誤を続けていきたいと思います。

BtoBマーケティングにおける「ペルソナ」活用

※記載されている内容は掲載当時のものであり、一部現状とは内容が異なる場合があります。ご了承ください。