創業465年、老舗きものブランド「千總」が取り組むデジタルイノベーション
~toCチャネル開拓とデジタルプラットフォーム構築~

株式会社千總

京友禅を代表する千總のきものブランド

1555年からの古い歴史があり、京友禅を代表するきものブランドとして名を馳せてきた株式会社千總。しかし、近年においては、世代交代によってきもの離れが進み、ブランドの認知も低下してきたことに危機感を持っていました。

千總を再認知してもらい新しくファンを開拓するには、顧客と直接対話できるプラットフォームが必要。

そう感じた千總は、リブランディングプロジェクトとして、SPAへの業態転換に踏み切ります。リアルの接点としては、「千總」ブランドとして初の直営店を開設。そしてオンラインでも顧客と接点をつくるために、直営店の開店と同タイミングで、ブランドサイトのリニューアルと自社ECサイトの構築、CRMコミュニケーションを開始することに。この、デジタルプラットフォーム構築におけるプロジェクトの立ち上げ~企画~実装までをワンストップでシナジーマーケティングが支援しました。

今回は、創業465年の老舗がデジタルプラットフォーム構築に至った考えや経緯、こだわりについて、弊社担当を交えて株式会社千總の礒本様と高橋様にお話を伺いました。

インタビュー参加者写真

写真左より

高橋 甲樹 氏
株式会社千總 コミュニケーション部 担当課長

礒本 延 氏
株式会社千總 代表取締役専務

中山 雅士
シナジーマーケティング株式会社 西日本事業部
デジタルマーケティンググループ ディレクター/プロジェクトマネージャー

多々良 史弥
シナジーマーケティング株式会社 西日本事業部
デジタルマーケティンググループ マーケティングコンサルタント

樽井 みずき
シナジーマーケティング株式会社 西日本事業部
デジタルマーケティンググループ 営業

※部署名・役職は取材当時(2020年10月)のものです

「千總」ブランドを伝えるために必要だった、BtoCチャネルの開拓

― 千總様は歴史あるブランドですが、どのような課題を感じていたのですか。

礒本氏 当社は1555年の創業以来、465年間京都に根付いて事業を行ってきた歴史があります。そのため、きものを着る方を中心に「老舗の千總」「京友禅の千總」として認知をされていました。しかし、きものを着る機会の減少という背景もあり、「千總」という名前は知られていても、「千總がどのようなブランドであるか」を具体的にイメージできる方がどんどん減ってしまっていたのです。平成以降は特にその課題を感じ、改めて「千總」のブランドと世界観をお客様に認知いただく必要性を感じていました。

課題について語る磯本氏

― それで、リブランディングを考えられるようになったのですね。

礒本氏 私たちは長年、小売店に卸す形態で商売を行ってきました。ただ、千總ブランドや世界観をしっかりと伝えて、私たちの商品や技術をお客様に再認知していただき新たなファンを獲得するためには、直接お客様と対話できる場所を用意しなければと思ったのです。伝統産業であり、自己表現のツールでもあるきもの文化を次世代に残していくためにも、お客様とのコミュニケーションや直接の接点を強化するといった変化は必須でした。

― 具体的には、どのような施策が必要だと思いましたか?

礒本氏 まずは対面での接点をつくることです。13年前から試験的に店舗を開設していたのですが、正式に「本店」という形で直営店を開設することにしました。また、直営店の開設と同じタイミングで、ブランドサイトのリニューアルと自社ECサイトの構築を行い、オンラインでもお客様との接点を強化することにしたのです。これまでも子会社の運営するECサイトでスカーフなどの小物は販売していたのですが、今後はきものの販売も始めることにしました。そして、これらデジタルプラットフォームの刷新プロジェクトをシナジーマーケティングにお手伝いいただくことにしたのです。

「CRM視点でのプラットフォーム構築が期待できることと、明確な座組みが決め手」

― ご相談いただく前からシナジーマーケティングとの接点はあったと聞いております。

高橋氏 私が入社した2015年、お客様の情報を取得できる手段は、きものの「カタログ請求」のみでした。また、お客様のデータを集めて分析したり、お客様にメールなどでアプローチしたりといったことはできていませんでした。あるとき、当時Web周りをお任せしていた制作会社の担当者から「データを活用してマーケティングをするべきですよ」と紹介されたのがシナジーマーケティングです。そして、2016年にカタログ請求データからデジタルマーケティングにトライするためにSynergy!を導入しました。

シナジーマーケティングとの接点について語る高橋氏

― 2016年のSynergy!のご導入から、お取り引きがスタートしたのですね。

高橋氏 2年ほど運用を続けていると、顧客データが蓄積されて、施策へ活用できる量になりました。そこで、2018年にシナジーマーケティングに支援していただいて、カタログ請求の情報を活用した広告施策の実施や、催事の来場促進を目的としたメールによる引き上げ施策にチャレンジしました。その際に豊富な施策提案や効果検証のご支援などもあり、シナジーマーケティングはCRMツールの提供だけにとどまらず、デジタルマーケティング全般を支援してくれる企業なのだと知りました。そのため、2018年秋にリブランディングプロジェクトの構想を話し、デジタルマーケティング戦略構築の相談をしたのです。

樽井 広告施策やメールによる引き上げ施策では私も手応えを感じていましたし、これまでBtoBのみだった販売形態をBtoCに拡張していくという大きな変化を迎えられるということで、ご支援の領域を広げられるのではと考えていました。そこから集客やSNSの運用、データの活用方針などのアドバイスや弊社の知見を共有させていただきました。また、「各種サイトの整備と合わせて、会員登録やカタログ請求、購入などのアクションをされたお客様との、オンラインでのコミュニケーション戦略も考えていきましょう」というCRMの提案も行いました。卸という販売形態では見えにくかったお客様像を明らかにしていくために、オンライン上でもお客様とのタッチポイントを増やしていく準備ができればと思ったのです。

― 改めて、千總様が今回のプロジェクトをシナジーマーケティングに任せたいと思った理由を教えてください。

高橋氏 まず、2018年に取り組んだデジタルマーケティング施策において、カタログ請求から催事来場、購入までの引き上げ施策の成果がしっかりと出たことが一つです。もう一つは、お客様のデータを蓄積する概念が当社に無かったところから二人三脚で継続して支援いただいたこともあり、シナジーマーケティングなら当社のことを理解をしてくれた上で、CRMの広い視点でブランドサイトのリニューアルやECサイトの構築を支援してくれるだろうという期待があったためです。

礒本氏 私も提案プレゼンの場に同席したのですが、きものを着る体験の価値をしっかりと理解してくれて、われわれの思いに共感しながら提案をしてくれた営業の樽井さんの存在は大きかったです。また、プロジェクトチームを結成して、それぞれの方がどの役割を担うのかをはっきりと提示してくれた座組みの明確さも決め手になりました。当社のWeb周りは高橋が一人で担っているので、チーム一丸でサポートしていただける体制はありがたかったです。

樽井 きものは多くの女性が人生の節目で着るものですし、身にまとった時には「普段とは違う自分に出会った」という感覚や「ここから新しい人生が始まる」といった期待感を抱かせてくれるものです。そのような価値を持つ、きものという商材を扱う千總様の新たな挑戦にはぜひ携わりたかったですし、弊社の強みである包括的な支援で高橋様をサポートできればと思いました。

千總様の新たな挑戦に携わる思いを語る樽井

オフライン(本店)とオンラインで、一貫性のある顧客体験を提供できるように

― プロジェクト全体ではどんなことを意識していましたか?

中山 本店とブランドサイトとECサイトをそれぞれ独立させるのではなく連携させて、「いかに一貫性のある顧客体験を提供できるか」という設計にはこだわりました。提供したいサービスや搭載したい機能が出揃った後は、それらを本店、ブランドサイト、ECサイトのどこに配置するのかを決めたり、メールマーケティング効果を最大化する「Synergy!」とは?「ECでこうしたサービスを提供するから、本店でもこうしよう」という風に、すべてのオペレーションを連携して決めていきましたよね。

顧客体験の設計とオペレーションの連携について語る中山

高橋氏 そうですね。プロジェクトの初期段階から連携を意識し、店舗、Webサイトそれぞれの場で最適なコミュニケーションをとれるよう、整合性を持たせながら調整、進行していきました。また、一貫性のある顧客体験を提供するためには本店とオンラインのデータ連携は必須だろうということで、ECとPOSの連携や一貫した会員管理を決めたのです。本店で接客する際にスタッフが管理画面を参照して、「このお客様の●●の情報がまだ無いから伺おう」「今後の施策のために、この情報を伺っておこう」と接客に活かせることが理想でした。

― そうした大前提の元に進められたプロジェクトですが、ブランドサイトに関して千總様はどのようなご要望をお持ちでしたか。

高橋氏 一番は、製品ビジュアルから千總の生み出す世界観を体感してもらうことです。当社の歴史やきものづくりへのこだわりは、思わず言葉で語りたくなります。また、これまでは「老舗」や「京友禅」などの枕詞を使いがちでした。ただ、それらはすべてきものに代表される千總の製品に詰め込まれています。だからこそ、まずは製品の魅力そのもので「綺麗」「かわいい。もっと見てみたい」と認知させ、「千總の世界観」へと興味を惹くことを目指しました。そこで、言語による説明を最小限として、製品によるビジュアル重視のコミュニケーションデザインを希望しました。

▼リニューアルしたブランドサイト
千總 - 公式サイト -

樽井 そのような思いや、千總様の「美・ひとすじ」という企業理念を伺い、デザインコンセプトをご提案しました。主役であるきものや着姿の美しさを最大限に引き出し、「最小限の情報量で、最大限に伝わる」デザインを意識しています。

中山 ブランドサイト制作時に、多くの企業様は「ブランド価値のうち、何を重視して伝えるべきか」「すべて伝えられるか、取捨選択すべきか」ということに迷われます。しかし、千總様の場合は初期の打ち合わせの段階から、「プロダクトの美しさで勝負する」という方向性を求められていたので、提案がしやすかったです。例えば「465年の伝統」など、思わず詰め込みたくなる要素に対しても、「千總の歴史の長さや伝統がお客様に伝わるのは、最後でかまいません」というように、重視されたい価値をしっかり定められておりました。

また、要件定義期間をしっかりと設け、ヒアリングとディスカッションによる意見交換を綿密に行いました。先に話のあがったオフラインとオンラインの連携など、検討すべき要素が多く存在するプロジェクトでしたが、千總様の思いとシナジーマーケティングの知見をしっかりと組み合わせてスコープを立てることができました。
その中で千總様の歴史や事業の変遷、企業文化などを先にインストールしていただき、プロジェクトメンバーで共通認識をつくることができたことも大きかったです。そのため、途中新型コロナウイルスの影響で対面でのお打ち合わせができなくなってしまってからも、オンラインでのコミュニケーションがスムーズにできたと思います。

丁寧な接客やおもてなしを大事にする姿勢とオムニチャネル化は相性が良い

― ECサイトのこだわりに関してはどうですか?

中山 ECサイトにおいてもコンセプトは変わらず、「製品が主役であること」です。ただ、きものを扱う上では採寸情報や紋を登録する機能など、通常のECでは見かけないユニークな機能の搭載も必要でした。シンプルなビジュアルコミュニケーションと、お客様が戸惑われない購買体験を両立させる設計に気を遣いました。

高橋氏 一番迷ったのは、オンラインでも対面に劣らないコミュニケーションを設計する上で、ECサイトにどこまで詰め込むかということです。お客様が本店できものを購入する際、販売員が寄り添って接客を行う時間は2時間ほどにのぼります。気を利かせたり、時には少々おせっかいにもなりながら提案したりといった丁寧な接客を行うわけですが、それをECのしくみに落とし込もうとすると、どうしても機能が複雑になりすぎてしまいました。複雑だと、お客様にとっても不親切なんです。

ただ、「オンラインと本店でのオペレーションを連携する」という軸に立ち戻ると、すべてをシステムで解決できるようにするのではなく、「ここからは本店でのコミュニケーションで相談・決定していく」というように、検討・購入プロセスの中で人を介在させていいと思えたんです。すると、機能要件の優先順位が明確になりました。例えば、初めて千總できものを買うお客様にはご来店いただいて採寸を行ってほしいので、ECサイトに本店への来店を推奨する導線を用意しました。一方で、本店で購入経験のあるお客様は店舗での採寸情報を呼び出してECから購入可能にするなど、オフラインとオンラインで連携のとれた購買体験となるよう工夫しています。

▼ECサイトTOP

▼商品ページ

― オンラインとオフラインでの購買体験がスムーズに繋がる流れを意識されたのですね。

樽井 千總様のような老舗かつ高単価商材を扱われているブランドが、オムニチャネル戦略に意欲的であることが素晴らしいと思います。

高橋氏 むしろ、販売員がお客様とじっくりコミュニケーションをとってさまざまなお話を伺う、きもの販売に携わっている私たちだからこそできることなのかもしれません。かつてはお客様のお顔やお名前や趣味などを記憶しているカリスマ販売員もいましたが、こうしてデータを連携・共有できるデジタルのしくみを用意することで、すべての販売員がそうした接客を実現できますし、オンラインでも細やかな気配りの行き届いたコミュニケーションが実現できると思っています。

礒本氏 本店のオープンとサイトリリースを同じタイミングで行ったからこそ、本店と連携をとりながらオペレーション教育をスムーズに進められて、どのチャネルでも同質の顧客体験を提供できる準備ができたと思います。創業465年の老舗が最先端のオムニチャネル戦略に挑戦するというのは、あまり前例の無いことだと思うので、チャレンジし甲斐があると感じています。

蓄積した多様なデータを元に、CRMコミュニケーションにも注力していく

― 「ECとPOSを連携させる」というお話もありましたが、各チャネルで収集した顧客データを活用するCRMプロジェクトも走り出されています。

多々良 千總様の場合、本店での購買履歴と接客履歴、ECでの購買履歴、そして会員情報など豊富なデータのリアルタイム連携が実現されました。まずはこのデータ環境を活用し、メールによるCRM施策に取り掛かりました。具体的にはカート落ち、商品詳細ページの離脱フォローメールなどECの購入促進を中心においた施策と、購入していただいた方のロイヤルティー形成を目的とした購入後フォローメールの実施です。

特に購入後のフォローメールでは、商品カテゴリに応じて、きもののお客様には着付けのポイントやお直しサービスを紹介するなど、よりきものの魅力を堪能していただけるよう設計しています。この多様なデータを元に、リアルとデジタルそれぞれの接点を起点として、今後もOne to Oneコミュニケーションを展開していけると考えています。

CRMプロジェクトの具体的な内容について語る多々良

中山 きものは、「検討から購買まで」「購買から手元に届くまで」「一度買ってから再度購買するまで」に期間の空く商品のため、その特性を活かしたコミュニケーション施策を考えていきたいですね。サイトはリリースされましたが、いかに多くのお客様の情報を集めて活用していくのかというところはこれからなので、引き続きご支援させていただきたいです。

高橋氏 私もSynergy!を活用したり、デジタルマーケティング施策を行ったりする中で、「お客様のデータを集めて分析することが、お客様とコミュニケーションを行う上でとても大事」だと気付けました。各チャネルのデータを統合することで、お客様の行動や考えがより見えてくると思うので楽しみです。集めたデータは、オンラインでのコミュニケーションはもちろん、本店での接客にも活かしていきたいと思います。

多々良 今後は、千總様のような「ラグジュアリーなブランドにおいて、どのようなデジタルコミュニケーションを設計することでブランドに対する愛着や信頼度を高めていけるか」ということを考えていきたいです。一般的なECサイトでは、どうしてもCVRと購入頻度をどう高めていくかという観点に立ってしまいがちです。しかし、千總様の場合は「千總の世界観」をいかにお客様に感じていただくかというブランディング観点が重要だと感じています。お客様が、本店で過ごした豊かな時間や販売員の方の丁寧な接客を思い出せるような、デジタルコミュニケーションの実現にトライしていきたいです。

「信頼できるメンバーとプロジェクトを進められて、社外にチームがあるような感覚だった」

― 最後に、本取り組みに対するシナジーマーケティングへの感想や今後の展望を教えてください。

高橋氏 シナジーマーケティングは、いつも千總のことをよく理解した上で本質的な提案をしてくれました。社内でWeb周りに携わっているメンバーは私一人でしたが、“社外にチームがある”ような感覚なんですよね。今回のサイトプロジェクトにおいても、さまざまなことを安心してフランクに相談できました。デジタルプラットフォームの土台は整って施策の実施はこれからですが、徐々に千總の歴史やこだわりを知ってもらえるようなコンテンツも充実させていきたいと思います。

礒本氏 各分野のプロフェッショナルの方が真摯にコミットしてくれたので、正直「こんなにお得でいいの?」という感覚でした。リリースしたサイトは一見シンプルですが、裏側ではオムニチャネル戦略実現のためのチャレンジの種がたくさん撒かれています。11月にはバッグ、12月にはジュエリーと今後新カテゴリの商品も販売していくので、それらの購買履歴も含めてデータを蓄積していき、2021年以降にデータを活用した施策や商品展開を加速させていきたいです。

今後の展望に語る高橋氏と磯本氏

樽井 弊社はCRMを生業にしている企業なので、「自社ブランドを選んでくれるお客様とのコミュニケーションを大事にしたい」「お客様に求められている価値をしっかりと提供していきたい」という思いを大事にしている企業様のご支援に力を入れています。だからこそ、伝統的なブランドを守りつつもお客様に向き合うために新たなチャレンジに踏み切った千總様をサポートできたことはうれしく思います。千總様とこれから出会われるお客様とのコミュニケーションがより良いものになるように、ここからをスタートとして、しっかりとデータを見ながらコミュニケーション設計の最適化を図れたらと思っています。

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※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。

株式会社千總
代表取締役専務
礒本 延 氏

株式会社千總
コミュニケーション部 担当課長
高橋 甲樹 氏

株式会社千總

千總は、1555年に京都・三条で法衣装束商として創業以来、時代に合った感性を取り入れながら、フォーマルなきものからアクセサリーアイテムなど、さまざまな商品を提供している京友禅きものの老舗企業です。自社オリジナルブランドである“CHISO”で、人生の節目を祝う振袖などの晴着、日常を華やかに彩るきもの、スカーフ、染織品を取り扱っています。