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ファンとのコミュニケーションも「めざせ世界一」
福岡ソフトバンクホークスのファンエンゲージメント
球場に足を運び、非日常のような気分に浸る。選手の華麗なプレーに魅了され、手に汗握る試合展開に一喜一憂する。こうした体験を求めて、プロ野球を観戦するファンはたくさんいます。そして、こうしたファンの声援が選手への力となり、チームの勢いに繋がります。
プロ野球を含めたスポーツにおいて、とても大切な存在であるファン。球場やスタジアムの設備を充実させたり、面白いイベントを企画したりするのも、すべてファンを喜ばせたいという思いがあるからです。一方で、デジタルマーケティングを活用したファンとのコミュニケーションに関しては、まだまだ課題を感じているスポーツチームも多くあります。
プロ野球、パシフィック・リーグに所属する福岡ソフトバンクホークスは、2017年シーズンまで25年連続で観客動員数リーグ1位を記録し続けている人気球団です。しかし、これまではデータが一元化されていないために1人ひとりのファンの嗜好がわからず、一律なコミュニケーションしか行えていませんでした。球団に対してより愛着を持ってもらうためにも、ファンとのタッチポイントを最適化する必要性を感じたホークスは今、システムを刷新し、データを活かしたコミュニケーション施策を始めています。今回は、ファンとのコミュニケーションでも「世界一」を目指す、ホークスの取り組みについて伺いました。
写真左より
上原 正憲
シナジーマーケティング株式会社 東日本事業部 第一営業G
下山 倫央
シナジーマーケティング株式会社 ソリューションマネジメント部 プロダクトソリューションG サブマネージャー
石井 英之 氏
福岡ソフトバンクホークス株式会社 事業統括本部 マーケティング本部 営業戦略部 CRM推進課 課長
※部署名・役職は取材当時(2018年4月)のものです
チームも球場体験も「めざせ世界一」のホークス
福岡ソフトバンクホークスは、2017年までの10年間でリーグ優勝5回、日本一4回という圧倒的な成績を残しています。強くて魅力的なチームは、たくさんのファンに愛されるもの。ファンクラブの会員数は14万3,000人を超え、ホークスの本拠地・福岡ヤフオクドームは、2017年シーズンまで25年連続でリーグ観客動員数1位を記録しています。
ホークスは、球場に訪れてくれたファンに楽しんでもらうための工夫も欠かしません。たとえば、福岡ヤフオクドームの屋根は日本でただ一つの開閉式の屋根であり、ホークスが勝利した試合後には屋根が開いて花火が打ち上げられることも。また、球場のビジョンは5画面構成の超大型で、映像演出に華を添えます。広く、美しい球場で、ドラマチックな試合を繰り広げるホークスの野球は、いつもたくさんのファンを魅了しています。
ファン1人ひとりとのコミュニケーションを強化するため、会員統合プロジェクトが始動
そんなホークスですが、一方でファンとのコミュニケーションに関しては課題が多かったとCRM推進課の石井さんは話します。
「感動的な球場体験づくりは徹底していたものの、デジタルマーケティングを活用したファンとの関係性づくりやコミュニケーションに関してはそれほど取り組めていませんでした。球団の組織としては、チケット販売部門、通販部門、ファンクラブ管理部門、球場での物販・飲食部門などがあります。2015年頃までは、部門ごとに別々のデータベースでデータを管理していました。そのため、たとえばファンクラブに入っている方が、観戦に来られているのか、当日グッズや飲食を購入されているのかなどがわからなかったんです。」
データベースがバラバラだった弊害は、ホークスの情報やチケットの販売を案内するために送るメールマガジンにも及んでいました。各事業部門がそれぞれ一斉にメール配信を行っていたために、あるお客様にとってはあまり関係のない情報を送ってしまっていたり、お客様がメールの配信を停止しても別のメールマガジンは届いたりといった事象が起きていました。
こうした事象をなくすこと、そしてファンにまつわるデータを1箇所に集めることで、ファン1人ひとりの嗜好や行動を知って、最適なご案内を送ること。それらを実現するために、2015年9月にシニアマネジメント層が中心となりビジョンや方向性をまとめ、2016年3月より「会員統合プロジェクト」がスタートしました。
ファンの野球観戦体験のすべてを包括したサービスを提供する
「これまで行っていた、全員に同じタイミングで同じご案内をする一斉配信のような、こちら都合のコミュニケーションはやめたいと思っていました。お客様のデータを一箇所に集めることができれば見えてくる、お客様1人ひとりの来場前、試合観戦時、来場後の行動を踏まえて、その方に求められている情報をご案内できるようになりたいと。こうした、ファンへのタッチポイントの最適化を行うことで、ホークスへの愛着を深めてほしかったのです。」(石井さん)
テストマーケティングでコミュニケーションの勝ちパターンを知る
新環境でのデータ統合は約1年かけて運用に沿うよう構築し、2017年シーズンからローンチすることに決まりました。システム刷新を進めるのと並行して、2016年に行ったのがテストマーケティングです。
「2017年に新システムがローンチしますが、それから『どのようにファンと接点を作ろうか』と試行錯誤していては、あっという間にシーズンが終わってしまいます。新環境下ですぐに施策を打てるよう、施策・分析を通じてコミュニケーションにおける勝ちパターン※を特定し、施策設計やシステム設定に反映することが目的でした。」(上原)
※勝ちパターン=セグメント(誰に)×オファー(何を)×タイミング(いつ)
仮説を立て、検証を行うテストマーケティング。その繰り返しの中で、特に効果的だとわかった2つの施策がありました。
- 来場予定者への購買促進施策
週末の試合のチケット購入者に対して、ポップコーンなど飲食物のクーポン券をメールで配布。このメールの開封率は、これまで行っていた一斉配信と比べて20ポイントほど高い56%という数値に。また、試合日にクーポンを利用して、球場で飲食物を購入された方も多くいました。 - 観戦後、一定期間経過した方へのフォロー施策
球場で観戦された方に対して、観戦のお礼を伝え、今後開催される試合のチケットをご案内するフォローメールを送付。何度かタイミングを変えてテストをした中で、観戦後2週間以内にチケットを再購入する方が最も多いとわかりました。
「当初の目的通り、テストマーケティングを通じて、来季以降に活かせるコミュニケーションの勝ちパターンを見つけることができました。現在もこの成果を参考にした施策を打っています。
1を活かした例では、チケット購入者に対して前日に『ヤフオクドームガイドメール』を送っています。翌日の試合での飲食やグッズの目玉商品やお得なキャンペーンを伝えるものです。ファンの方にとっても、気持ちが高まっている観戦前日に送ることが効果的なようで、他のメールに比べて4倍ほどのクリック率が出ています。
また、2はほぼそのまま活かしており、球場に来場された方へは、観戦終了直後と観戦から2週間後に来場御礼とチケットのご案内メールを送っています。」(石井さん)
メールやアプリなど多様な媒体を使ってファンとのタッチポイントを最適化
こうしたテストマーケティングの成果を活かした施策を含め、ホークスは2017年の新システムローンチ後、メールや会員サイトなど多様な媒体を活用し、ファンとのタッチポイントの最適化を行っています。来場やテレビ観戦などによってポイントを溜めることのできるアプリでも、情報の案内を始めました。
ファンがほしい「情報」を、適切な「方法」で、適切な「タイミング」で提供する
「ファンとのタッチポイントが増えたことで、ファンの方1人ひとりが自分に合ったチャネルや欲しい情報を選んでくれやすくなりました。より多くのファンとコミュニケーションが取れるようになってよかったです。また、ホークス側としては、今すぐお伝えしたい情報はアプリのプッシュ通知でご案内するなど、用途に応じてチャネルを使い分けています。」(石井さん)
もちろん、新システムの元でファンの属性データ・行動データ・購買データの一元化も実現。データを活用したCRMの更なる推進に取り組んでいます。実施した施策は、大きく分けて5つです。
1. お客様の行動を起点にした「リターゲティングメール」でのコミュニケーション
何らかのアクションを起点にしてメールを自動的に配信する「リターゲティングメール」を使って、チケットの購入画面で離脱してしまったお客様に対して、1時間後にフォローメールを送付。
購入画面まで遷移していながら購入に至らなかったということは、もしかすると入力時に不明点があったのかもしれません。あるいは、後で入力しようと思っている可能性も。そこで、「何かお困りなことはありませんか?」というメッセージのメールを送るようにしました。
このフォローメールから7%のお客様が購入に至っています。また、メールを送る際には「1時間以内に購入した人には送らない」という制御もしています。
驚異的な開封率の高さは、欲しい情報を欲しいタイミングで届けられている証
なお、リターゲティングメールは他にも、上述した「観戦後のフォローメール」でも活用しています。配信タイミングやコンテンツなど、手動でいくつかのパターンを検証し、効果のよかったものを残して自動化していくという運用を行っています。
2. チケット販売促進のための「セグメントメール」
人気があるホークスの試合でも、18時から試合が始まる平日のナイターのチケットは売れづらいことがあります。そこで、試合の1週間前に定価から少し値引いた金額で、福岡市などドームの近郊にお住まいのお客様へチケットの案内をしました。
タイムセール的な見せ方で情報を届ける
お客様にとってはチケットを安く買え、ホークス側にとっては平日でも多くのお客様に来場いただけるなど、互いにメリットがあります。チケットセールス課と連携を図り、ターゲットや商品を絞ったキャンペーンを定期的に実施しています。
3. 「アプリプッシュ通知」で、来場者に対するリアルタイムコミュニケーション
球場への来場者に限定して、即時性が求められる情報をアプリプッシュ通知でご案内しています。たとえば、2017年にホークスの柳田選手が福岡ヤフオクドームで100本塁打の記録を達成した直後には、来場者に対して記念グッズの販売開始案内をプッシュ通知で送りました。
来場を起点に、タイムリーな情報をリアルタイムで届ける
そのお知らせを見た来場者は、球場内にあるグッズ販売のワゴンへ向けて駆け出したそうです。一方で、来場してない方に対しては、記念グッズが通販サイトでも販売開始になった旨を、メールでご案内しています。
4. 「Webパーツ」でアプリやマイページでの情報を出し分け、案内を最適化する
アプリやマイページ(会員サイト)の上部に出すバナーを、ファンの方1人ひとりの属性・関心・行動に添った内容に出し分けています。出し分けを行うのは、そのお客様に今一番知ってほしい情報を、埋もれさせず優先的にご案内するためです。
運用面で大事にしていることは、それぞれのお客様に対して「出さないバナーを決めること」。たとえば、男性には「タカガールデー」の案内は出さない、通販サイトで購入したことがない方には積極的に通販サイトのキャンペーン案内のバナーを出さない、などです。これは、来場前のお客様には、まず球場に来てもらうことが第一なので、球場に来る動機付け(チケット購入)のご案内を優先すべきという判断からです。
チケットを購入したお客様にだけ、ヤフオクドームをガイドが案内する「ヤフオクドームツアー OB解説付 練習見学コース 」のバナーが自動的に表示されるしくみにもなっています。取捨選択して情報を届けることで、お客様1人ひとりの興味に合った、鮮度の高い情報を案内することができるのです。
1人ひとりの興味に合った鮮度の高い情報を案内する
バナーは、10パターン設定しておき順番に表示させることができます。そのため、Synergy!の管理画面上で各バナーのCTRを見ながら、日ごとに掲載順を変える工夫も施しています。
5. タカポイント会員(無料)獲得のための、CRMデータを活用した広告施策
よりたくさんの方にファンになってもらうために、タカポイント会員(無料)の新規会員獲得への取り組みも行っています。その際に、過去の会員やチケット・グッズを購入したことのある方、また現在の会員にデモグラフィック情報や趣味・関心が似ている方に対して広告の拡張配信を実施することで、ホークスに関心がありそうな方に効率的にアプローチすることができました。
CRMデータ(会員情報)を活用することで、効率的に新規会員を獲得
特に、Facebookの「現会員の類似拡張」配信がCPC、CPAともに一番安く、獲得も良かったです。タカポイント会員になることの特典をシンプルに訴求したクリエイティブが効果的でした。
メールの配信本数が増えてもクリック率が前年比169%に向上
こうして、ファン1人ひとりに適したご案内をするべくさまざまな施策に取り組んでいるホークスですが、その中でもリターゲティングメールにはとても効果を感じているといいます。
「まだまだ属性や年齢でセグメントしてメールを送るのが主流だと思いますが、興味を持っている人に対してタイムリーにメールを送ることのできるリターゲティングメールは、スピード感があるし、成果につながりやすいと感じています。メールはさまざまな使い方ができるし、一番活用できるコミュニケーションチャネルですよ。」(石井さん)
リターゲティングメールは、シナジーマーケティングが作成したコミュニケーションシートを元に配信設定を行っています。コミュニケーションシートとは、Synergy!上でどのように設定すれば、誰に向けてどのようなメールを送ることができるのか、その手順を記載したものです。
誰でも簡単に設定できるよう手順をまとめたシートの一例
「ホークスさんは、300ほどのデータ項目をお持ちです。どのデータをどのように組み合わせられればホークスさんが行いたいコミュニケーションが実現できるのかを考え、スムーズに運用していただくために用意しました。Synergy!やメール配信システムを初めて操作するご担当者の方でも、これを見れば簡単に設定ができるはずです。」(下山)
リターゲティングメールを活用するようになったこともあり、メールの配信本数は前年比127%に増えました。一方で、クリック率も前年比169%に増加。メールが増えてもクリック率が上がっているのは、メールが読まれており、ファンがメールの内容に興味を持っているからだといえます。
「メールの一斉配信は、チームの1週間の戦況などを伝えるメルマガ『週刊ホークス』1本に絞りました。他のメールはすべてセグメントメールやリターゲティングメールで配信しています。そのため、配信本数が増えても、ファンの方が欲しいと思っているタイミングで興味に合う情報をご案内できているのだと思います。」(石井さん)
「自社都合のコミュニケーションになっていないか」データを元に立ち止まる
部門ごとに実施していたメールの配信作業は、2017年からCRM推進課に集約し、作業の効率化も図っています。各部門で用意したメールは年間600通以上。その配信作業は、CRM推進課のメンバー1人が担っています。
「Synergy!は、UIがわかりやすいので、こうしたシステムを利用するのが初めてのメンバーでもすぐに作業に慣れることができました。配信本数が多く、種類もさまざまなので、『いつ誰にどんなメールを送るのか』といった情報はGoogleカレンダーに予定として入れて、メンバー間やコールセンターと共有できるようにしています。」(石井さん)
データを活用してタイミングとコンテンツを最適化し、しっかりした配信体制を整えたことで、メールの成果は上がっています。もちろん成果が出れば出るほど、各部門からは「このキャンペーンをメールで案内してほしい」といった要望も増えるように。その際に、石井さんは気を付けていることがあるといいます。
「『1人でも多くの方にメールを送った方がコンバージョン数が増える、だから一斉配信でお願いできないか』という要望が出ることもあります。けれど、それは自社都合のコミュニケーションです。ファンの立場に立って考えてみると、興味の無い情報や、自分に関係の無い情報が毎日送られてきたら、メールを読む気が失せて配信停止されてしまうかもしれません。そうなると、ファンとの貴重なコミュニケーション手段が失われてしまいます。だからこそ、本当にその情報を必要としていそうな方に絞ってメールを送ることの大切さは、データを元に説明して各部門に理解してもらっています。」(石井さん)
ファン1人ひとりに、ホークスへの愛着を深めてほしい。そういった思いがあるからこそ、たった数件の「配信停止」であっても、見逃すことはしません。『それは自社都合のコミュニケーションになっていないか』ということを常々問い直しているのです。
より多くのファンにホークスを愛してもらうために
2018年シーズン以降も、ホークスはファンに喜んでもらえるコミュニケーション施策に取り組んでいきます。
「データを一元化し、リターゲティングメールやアプリプッシュといったコミュニケーションの手段を用意できたことで、このように新しいチャレンジができるようになりました。今後も、さらにシナリオを増やしてリターゲティングメールを活用し、ファンに喜んでもらえる情報提供をしていきたいです。
また、重回帰分析などにより、球場での飲食・物販の購入にアプリプッシュが実際どのくらい直結しているのかを明らかにしていくなど、より深いデータ分析も行っていきたいです。他には、来場者からアンケートを取得してNPSに直結するような要素を見つけ、球場体験をさらに豊かなものにしようともしています。」(石井さん)
ホークスがお客様とのタッチポイントの最適化に力を入れるのは、「スポーツは応援してくれるファンあってのもの」だと信じているからです。よりホークスのことを好きになって、これまで以上に応援してもらうためには、ホークス側からファンのことを知り、ファンが求めていることを想像して、最適なご案内をするべきだと考えています。
観戦日も、球場に足を運べない日も、オフシーズンの日も、常にファンのそばにホークスがあってほしい。そして、ホークスを応援し続けてほしい。そう願って、ホークスはこれからもデジタルマーケティングを活用したファンサービスを追求していきます。
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※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。