【連載:定着の壁 第5回】現場が求めているのは、高機能ではなく“迷わず使えること”。AI成果を定着させる組織が重視すべき3つの視点

全5回で扱うテーマ
全体を通して扱うテーマは、次の通りです。
- 第1話:熟練前提ではない現場で、なぜ定着設計が重要になるのか
- 第2話:業務環境が離職意向につながる構造
- 第3話:ノンコア業務と業務停滞が思考時間を奪う問題
- 第4話:引き継ぎ・孤立・支援不足が定着を阻む理由
- 第5話:現場に定着する組織は何を重視すべきか
第5話:現場に定着する組織は何を重視すべきか
こんにちは。シナジーマーケティングの和田直之です。
ここまでの連載では、現在のマーケティング現場が熟練者だけで成り立っているわけではないこと、業務環境そのものが離職意向に影響していること、ノンコア業務や小さな停滞が思考時間を奪っていること、そして引き継ぎのしづらさや孤立が“定着の壁”を厚くしていることを見てきました。
ここまでの内容を通して見えてきたのは、非常にシンプルです。
AIやツール活用の成否は、導入時点では決まりません。
差を生むのは、その後、現場が無理なく使い続けられるかどうかです。
では、実際に現場は何を重視しているのでしょうか。
「機能の豊富さ」よりも現場が真に求めているものとは?
今回の調査では、ツールの選定・見直し時に「最も重視したいポイント」について聞いています。
その結果、最も高かったのは「サポート体制の充実度」23.1%、次いで「説明書なしで直感的に操作できること」21.6%でした。
「導入コスト・月額費用の安さ」18.8%、「自社システムとの連携性」18.0%、「機能の豊富さ」17.4%が続きます。

この結果は、かなり示唆的です。
企業がツールを比較するとき、つい機能一覧を見比べがちです。
何ができるのか。
どこまで自動化できるのか。
どれだけ高度な施策に対応できるのか。
もちろん、そうした視点は必要です。
ただ、現場の回答を見ると、それだけではありません。
むしろ上位に来ているのは、「迷わず使えること」と「困ったときに支援を受けられること」です。
これは、これまでの調査結果ともきれいにつながります。
経験1年未満が56.1%という現場では、誰もが最初から高度な運用を回せるわけではありません。
業務環境が理由で3割が離職を検討する現場では、余計な迷いや停滞は、それだけで負荷になります。
ノンコア業務に時間を取られている現場では、複雑な設定や属人的な運用はさらに負担を増やします。
引き継ぎや相談のしづらさがある環境では、ツールの難しさはそのまま継続意欲の低下につながります。
そう考えれば、「高機能であること」よりも「無理なく使い続けられること」が重視されるのは、むしろ自然な結果です。
ここで大切なのは、操作性やサポート体制を“便利さ”の話だけで終わらせないことです。
これは、成果の出しやすさの問題であると同時に、定着しやすさの問題でもあります。
高機能だが運用が難しいツールは、一部の熟練者にはフィットしても、組織全体では使われなくなるリスクがあります。
逆に、直感的に使え、サポートを受けやすいツールは、立ち上がりが早く、引き継ぎもしやすく、現場に残りやすい。
それが結果として、成果の持続性にもつながります。
効率化で生まれた時間を「創造的な業務」へ再配分する
もう1つ重要なのが、効率化によって生まれた時間を、現場が何に使いたいと考えているかです。
今回の調査では、「もし、使いやすいツールによって業務時間が大幅に削減できたら、その時間を本来何に使いたいか」も聞いています。
最も多かったのは「コンテンツ制作」28.5%、次いで「企画・戦略立案」24.9%でした。
「休息(リフレッシュ・残業削減)」23.4%も高いものの、それを上回ったのは創造的な業務です。

この結果は、非常に重要です。
なぜなら、ツール導入やAI活用の価値を、単なる“時間短縮”で終わらせてはいけないことがわかるからです。
現場は、ただ楽をしたいわけではありません。
もちろん休息も大切です。
しかし、それ以上に、本来の価値を生む仕事に時間を戻したいと考えています。
コンテンツを作りたい。
戦略を考えたい。
新しい施策に挑戦したい。
スキルを高めたい。
顧客と向き合いたい。
こうした答えが上位に並んでいるのは、現場が本質的には“創造的な仕事”に集中したいと思っていることを示しています。
ここまでの連載を振り返ると、定着の壁を生んでいる構造は、おおよそ次のように整理できます。
まず、スキルとのミスマッチがあります。
高度化する運用に対して、現場は必ずしも熟練者中心ではありません。
次に、ノンコア業務の比率が高く、本来業務に十分な時間を戻せていません。
さらに、引き継ぎのしづらさや相談しにくさが、日々の負荷感を増幅させています。
その結果、1〜3年目の主戦力化が進む層ほど、業務環境を理由に離職意向が高まりやすくなっている。
この流れが、今回の調査全体を通じて見えてきた“定着を阻む構造”です。

AI成果を定着させる組織が重視すべき3つの視点
では、組織は何を見直せばよいのでしょうか。
今回の調査を踏まえると、重視すべき視点は大きく3つあります。
1つ目は、作業割合を可視化することです。
担当者がどれだけノンコア業務に時間を取られているかを把握しない限り、改善の出発点は定まりません。
「忙しい」という感覚だけではなく、どの作業にどれだけ時間が使われているのかを見える化することが必要です。
2つ目は、多機能よりも定着しやすさを重視することです。
何ができるかだけでなく、誰が迷わず使い続けられるかを見る。
これは、ツール導入を成功させるための前提です。
3つ目は、顧客と向き合う時間を確保することです。
効率化の目的は、次の作業を増やすことではありません。
削減した時間を、コンテンツ制作、企画、仮説検証、顧客理解といった、本来の価値創造に再配分できてはじめて意味があります。
第5話、そしてこのシリーズ全体の結論は明快です。
これからの競争優位は、機能の多さではなく、現場を消耗させずに使い続けられる設計から生まれる。
DXやAI活用の本質は、単にデジタル化を進めることではありません。
人が本来の判断や企画、顧客理解に集中できる状態をつくることです。
ツールはあくまで手段であり、成果を生み出すのは人です。
その人が迷わず使い続けられ、引き継ぎやすく、相談しやすく、作業に埋もれない環境があってはじめて、成果は一過性で終わらず、組織の力として残っていきます。
今回の調査が示したのは、現場の疲弊を単なる個人の問題として片づけてはいけないということです。
問題は、設計にあります。
そして設計は、変えられます。
この連載が、貴社にとって
「ツールに使われる組織」から
「ツールを使いこなす組織」へ
視点を切り替えるきっかけになれば幸いです。
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