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アパレル企業の事例に見る、メッセージを「伝える」ためのプロセス

先日発行された日経情報ストラテジー2014年7月号の「伝え方」を極める特集で、弊社のお客様事例が紹介されました。記事では簡略化してご紹介いただきましたが、せっかくですので当事例の全貌をお伝えしたいと思います。

なお、私はデータサイエンスの専門家ではなく、UXのためのHCDやデザイン思考といったデザインプロセスを推進しています。今回の事例は、このデザインプロセスをデータビジュアライゼーションに応用したものなので、データサイエンティストだけでなく、デザイナーにも参考にしていただければと思います。

1. 伝わらない・活用されない(問題提議)

紹介されたのは、理想的なコミュニケーションの実現に向け、CRMプロジェクトを立ち上げ、ファッション業界では先駆けてCRMを押し進めてこられた企業様です。

統合管理した顧客データを使って様々な分析を実施され、毎月多くの指標をチェックされていました。その分析結果を更に活用するため、弊社にて顧客分析を行い、2つのKPIを設定しました。
そのうちの1つが会員数です。「会員が増えれば売上が増える」という分析結果を、経営者だけでなく実店舗の店長にも伝えるために、データビジュアライゼーションに取り組んだことが始まりです。

2. 分析結果を伝えたい人・活用シーンを知る(簡易調査から仮説構築)

まずは、当レポートの提出先やメッセージ、さらに二次利用があるのか等を確認し、以下の点を明らかにしました。

  • レポートは、経営者だけでなく店長にも共有し、「売上増加のためには会員獲得が大事」であることを伝えたい
  • 散布図は1つひとつの“点”に興味が向いてしまい、全体の相関関係が伝わりにくい

 

次に、コンサルタントのヒアリング結果と自分の過去の経験をもとに、ユーザー要求の仮説を立てました。

ユーザー要求1

店長は、自分の店舗と売れている店舗に(しか)興味がないだろう。

解決案:
資料に興味を持ってもらうために、始めに表示されるグラフ(会員の増加率ランキング)には、自分の店舗がわかるよう、データを丸めず店舗ごとのグラフとする。

ユーザー要求2

店長は、分析や数字に対して苦手意識があるのではないか。

解決案:
数値の精密さや網羅性よりも、分析結果に興味をもってもらうことを目的にする。グラフを分割してシンプルにし、ビジュアルも親近感のあるもの(若いスタッフが多いのでPOP風)にする。

ユーザー要求3

見慣れている「実数」ではなく、「なぜ増加率を見るのか」の理由を説明しなければ理解していただけないだろう。

解決案:
最初に説明を加える。2つ以上の情報を与えると混乱の原因になりそうなので、1つに絞った。
1度理解できれば同じような説明を繰り返す必要はないと考え、売上の増加率については簡単な説明にとどめた。

ユーザー要求4

店長からメンバーへ説明できる、もしくは資料だけ渡して活用できるようにしたい。

解決案:
口頭説明なしでも理解していただけるように、絵本・紙芝居のような構成にする。

データを見せる側が”これなら伝わる”と思っても、違う受け取り方をされることは多いため、このように事前にレポートを伝えたい対象者や活用シーンを整理しておくことが重要です。

3. グラフ(資料)の作成

ここまでの仮説を元に、3つのグラフ(資料)を作成しました。

A:散布図

オーソドックスに、散布図に補足説明を書き足した資料です。

142_tokumi_06_2

B:棒グラフ

先の「ユーザー要求1」を加味し、Aの散布図を2つの棒グラフに変更した資料です。

142_tokumi_06_3

C:絵本・紙芝居風

さらに、「ユーザー要求2~4」の要素を具現化した資料です。
「会員がいっぱい増えると売り上げも上がっている」「会員の増加がいまいちだと売り上げもいまいち」というメッセージをグラフ内に入れ、よりわかりやすくしました。

142_tokumi_06_4

4. 伝わっているか?を検証する

次に、ご担当者3名に、ユーザビリティテストで活用されている回顧法を取り入れたレビューを実施しました。

ご担当者の行動およびヒアリングの結果、以下のような特徴が見られました。

A散布図とB棒グラフの比較

  • 散布図(A)は、やはり相関より「点」が気になってしまう
  • 散布図(A)は、2軸を理解するのに時間がかかる
  • 棒グラフ(B)の方が、正しく数値およびメッセージが理解された

BとCの比較

  • グラフの理解のしやすさは同じ
  • Bは1枚でまとまっているので見やすい
  • Cはページが分かれるが、色の印象が強いので見やすい(ビジュアルによってページが分かれていても見やすさに問題ない)
  • Bのグラフには、拒絶反応がある人がいるかもしれない
  • Bはメッセージがパッと頭に入りにくい
  • Cのように、アパレルの文化として文字ではなく視覚的に理解できるものが望ましい
  • Cであれば、店長が自分のメンバーに説明できそう

総じてC案が伝わりやすい資料であることがわかりましたが、さらに以下のような新たな課題も発見されました。

  • 実数では店舗の規模の差があり比較しにくいため、増加率で表現している。しかし、11〜20位と21〜30位は、実数が増加しているにも関らず減少しているように見えるので、メンバーのモチベーションが下がらないか心配。
  • 資料にメモをしているが、背景が黒いのでメモしにくそうである。
  • 赤色は「赤字」という印象を経営陣にもたれるかもしれない、という指摘があった。

 

これらの課題点を修正し、完成した資料が以下です。
情報量が減ったことにより、「メルマガ会員を増やした店舗ほど、売り上げも増えている」というメッセージがスッキリ伝わるかと思います。

142_tokumi_06_5

5. まとめ

グラフには2種類の用途があると考えられます。

  • データを分析する
  • メッセージを伝える

分析した結果が伝わりにくい要因のひとつとして、この2つが混合していることがあげられます。
前者の場合は、データサイエンティストが分析するために必要なグラフで、数値の正確性やもれなく表現できていることが重要です。今回はその次のステップとして、2に取り組んだ事例をご紹介しました。

メッセージを伝えるためには、
まず以下をきちんと把握できていること(ユーザー調査による理解)が重要です。

  • ターゲットの課題を知る(目標やKPIとしている)
  • 使っている表現を知る
  • 使っている指標を知る
  • 使うシーンを知る(資料かプレゼンか、説明ありか、配布のみか)
  • 二次利用シーンを知る

データサイエンティストであれデザイナーであれ、「伝える」ためのプロセスは同じではないでしょうか。データビジュアライゼーションだけでなく、マーケティングに関する課題にもHCDやデザイン思考のプロセスやメソッドを応用して活用できないか、ということをこれからも模索していきたいと考えています。

(補足)データビジュアライゼーションが目指すこと

「まとめ」を書いた後ですが、当社のデータビジュライゼーション研究の発起人から当記事に対するコメントをもらったので追記します。

データ可視化の研究は分析者向けのものが多いですが、データをわかりやすく伝えることによって世界を変える、という問題にUX方面から取り組むのは今でも新しいことだと思います。

http://fellinlovewithdata.com/reflections/visualization-success-stories
“are we having any real impact in people’s life other than telling them beautiful stories?”
(きれいなストーリーを語るだけでなく、人々の生活に実際のインパクトを与えられているか?)

データビジュアライゼーションは、世界を変えることができる。
私もそういう可能性を秘めていると信じています。

参考

当社のデータビジュアライゼーション研究のメンバーが書いた記事をご紹介します。

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※記載されている内容は掲載当時のものであり、一部現状とは内容が異なる場合があります。ご了承ください。

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