【連載:データ資産化への決断 第1回】CPA最適化だけでは伸びない時代へ。先進企業が「LTV起点」に切り替え始めた理由

皆様、こんにちは。シナジーマーケティングの和田直之です。
私は現在、シナジーマーケティングでマーケティング支援に携わるとともに、企業の事業成長や顧客戦略に関わるテーマを、現場と経営の両面から見続けています。
この連載「データ資産化への決断」では、最新の調査データ「企業のデータ資産利活用に関する実態調査2026」をもとに、いま企業の現場で起きている変化を、単なるレポート紹介ではなく、経営判断や実務設計の論点として整理していきます。
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<目次>
全5回で扱うテーマ
全5回で扱うテーマは、次の通りです。
- 第1回:CPAの限界とLTV起点への転換
- 第2回:マーケと営業の分断と「検討文脈」の欠落
- 第3回:データ整備とスキル不足の壁
- 第4回:AI活用で生まれる成果格差
- 第5回:中堅企業が進めるべきCRM基盤と実装条件
第1回:CPAの限界とLTV起点への転換
Web広告による新規獲得の現状と「CPA最適化」の限界
第1回となる今回は、多くの企業が直面している「CPA最適化だけでは伸びにくくなっている現実」と、その中で先進企業がなぜLTV起点へ切り替え始めているのかを見ていきます。
広告の管理画面を見ながら、CPAを少しでも下げようと改善を重ねる。
配信面を見直し、クリエイティブを差し替え、入札単価を調整する。にもかかわらず、以前のように成果が伸び続ける感覚は持ちにくくなっている。そんな現場は少なくないのではないでしょうか。
実際、今回の調査でも、直近1年間でWeb広告の新規獲得効率が「改善した」と答えた企業は15.5%にとどまり、84.5%は「変わらない」または「悪化した」と回答しました。
この結果が示しているのは、単なる運用難易度の上昇ではありません。新規獲得の考え方そのものを見直すべき局面に入っているということです。
▼84.5%が「改善なし」と回答。Web広告による新規獲得効率は「停滞」が鮮明に

外部プラットフォームに依存した獲得モデルが機能しづらい背景
これまで多くの企業は、広告運用の改善によって成果を積み上げてきました。媒体の選定、ターゲティング、クリエイティブの最適化によって、一定の再現性を持ってリードを獲得できた時代があったのは事実です。
しかしいま 、その前提は少しずつ変わっています。競争環境の激化、媒体コストの上昇、Cookie規制の影響などが重なり、外部プラットフォームに依存した獲得モデルは、以前ほど素直に伸びなくなってきました。
「いかに安く獲得するか」から「誰を獲得すべきか」へ
ここで重要なのは、「広告がもう使えない」と短絡的に結論づけることではありません。
むしろ問うべきなのは、広告で誰を獲得すべきかを、自社がどこまで明確に定義できているかです。
広告効率が悪化している背景には、少なくとも3つの層があります。
1つ目は、競争の激化によって、これまで通りのやり方では獲得単価が上がりやすくなっていること。
2つ目は、外部プラットフォームのアルゴリズムやターゲティング精度に依存してきた構造が、以前ほど機能しなくなっていること。
そして3つ目が、もっとも本質的な論点です。自社が「どんな顧客を獲得すべきか」を、自社データに基づいて十分に捉えきれていないことです。
広告運用は、配信の技術だけで決まるものではありません。
どんな顧客を良い顧客とみなすのか。どのような顧客が継続し、収益につながり、LTVを高めているのか。そこが曖昧なままでは、入口の最適化にも限界があります。
広告効率が改善している企業に見られる「LTV向上」への投資
この点で示唆的なのが、今回の調査で見えたもう1つの傾向です。
現在Web広告の効率が改善している企業ほど、既存顧客データの活用やLTV向上に向けた予算シフトに積極的でした。
一見すると、新規獲得に成功している企業ほど、さらに広告投資を強めているように見えます。ですが、実際には逆の動きが見えています。
つまり、広告で勝てている企業ほど、入口だけではなく出口まで見ているのです。

ここに、いま多くの企業が見直すべきポイントがあります。
新規獲得を考えるとき、多くの組織は「いかに多くのリードを取るか」という入口の発想に寄りがちです。もちろんそれ自体は重要です。
ただ、その入口設計が本当に機能するかどうかは、獲得後にどんな顧客が残り、どんな顧客が価値を生んでいるかを見ないと判断できません。
たとえば、資料請求やセミナー申込みの数だけを成果として見ていると、広告配信は「反応しやすい人」を連れてくる方向に最適化されていきます。
しかし、その人たちが必ずしも受注や継続利用につながるとは限りません。
結果として、CPAは一見許容範囲でも、商談化率や受注率、継続率まで含めると、思ったほど事業成果につながっていない、ということが起こります。
一方で、先進企業は発想が異なります。
彼らはまず、既存顧客の中から「継続している顧客」「利益貢献度の高い顧客」「LTVの高い顧客」を捉えようとします。
そして、その共通点をもとに、新規獲得の入口設計を見直していきます。
言い換えれば、「どれだけ安く獲得するか」より前に、「誰を獲得すべきか」を定義し直しているのです。
この転換は、単なるKPIの付け替えではありません。
CPA中心の発想では、どうしても施策の評価が短期化しやすくなります。
その結果、いますぐ反応しそうな層に寄り、継続的な関係構築よりも、目先の獲得効率を優先しやすくなります。
しかしLTV起点で考えると、評価軸は自然と変わります。
「この顧客は受注につながるか」だけではなく、
「継続的に関係を築けるか」
「将来的に価値を高められるか」
「自社にとって良い顧客になりうるか」
という視点が必要になります。
そして、この視点に立ったとき、広告は単体の獲得手段ではなくなります。
広告、Webサイト、ホワイトペーパー、セミナー、メール、営業接点といった複数の接点が、1人の顧客をどう理解し、どう育てていくかという文脈の中で再配置されるようになります。
ここまで視野を広げてはじめて、新規獲得と既存顧客活用は別物ではなく、1つの顧客戦略としてつながります。
もちろん、ここで「では明日からLTVを見ましょう」と言うだけでは、現場はすぐには動きません。
LTV起点に切り替えるには、そもそも既存顧客をどう捉えるか、自社にとっての優良顧客をどう定義するか、その情報をどの部署がどう扱うか、といった土台が必要になるからです。
ただ少なくとも、いま多くの企業が見直すべきなのは、広告効率の改善余地そのものではなく、広告効率をどう評価しているかです。
まとめ
CPAを改善する努力が不要になったわけではありません。
ですが、CPAだけを見て入口を最適化する発想では、伸びしろを作りにくくなっているのも事実です。
新規獲得の成果を本当に伸ばしたいのであれば、見るべきなのは管理画面の数値だけではありません。
その先で、どんな顧客が残り、育ち、価値を生んでいるのか。そこまで含めて設計し直す必要があります。
2026年の新規獲得は、単純な広告最適化の競争ではありません。
「どんな顧客が自社にとって価値ある存在なのか」を、自社のデータからどこまで明らかにできているか。
そこが、次の差を生み始めています。
次回は、その視点をさらに進めて、MQLは増えているのに、なぜ商談が前に進まないのか。マーケティングと営業の間で何がズレているのかを掘り下げます。
新規獲得の議論を、件数ではなく「顧客の検討文脈」から捉え直していきます。
※記載されている内容は掲載当時のものであり、一部現状とは内容が異なる場合があります。ご了承ください。

