【連載:データ資産化への決断 第2回】MQLは増えているのに、なぜ前に進まないのか。マーケと営業を分断する“検討文脈”の欠落

<目次>
全5回で扱うテーマ
全5回で扱うテーマは、次の通りです。
- 第1回:CPAの限界とLTV起点への転換
- 第2回:マーケと営業の分断と「検討文脈」の欠落
- 第3回:データ整備とスキル不足の壁
- 第4回:AI活用で生まれる成果格差
- 第5回:中堅企業が進めるべきCRM基盤と実装条件
第2回:マーケと営業の分断と「検討文脈」の欠落
こんにちは。シナジーマーケティングの和田直之です。
前回は、CPA最適化だけでは新規獲得を伸ばしにくくなっている今、先進企業ほどLTV起点で入口設計を見直していることを見てきました。
MQLの増加が「商談化」に直結しない理由
ただ、ここで次に多くの現場がぶつかるのが、別の違和感です。
広告やコンテンツ施策によってリードは取れている。MQLも一定数は作れている。営業も動いている。
それなのに、なぜか商談が前に進みにくい。受注の手応えが弱い。そんな感覚を持つ現場は少なくありません。
この問題は、マーケティング施策の良し悪しだけで説明できるものではありません。
むしろ今起きているのは、企業側が見ている数字と、顧客側で進んでいる検討プロセスがズレやすくなっているという構造変化です。
企業側のKPIと顧客の「検討プロセス」のズレ
多くの現場では、MQLが1つの重要な目標として置かれています。
それ自体は間違いではありません。顕在化したニーズを捉え、営業へつなぐという意味で、MQLは今でも重要な役割を持っています。
ですが、問題はそこから先です。
MQLを「ゴール」として扱うのか、それとも「顧客の検討が進んだ結果として現れるサイン」として扱うのか。
この認識の違いが、マーケティングと営業のズレを生みやすくしています。
以前よりも、顧客は問い合わせや資料請求といった行動を起こす前に、かなり深いところまで比較・検討を進めています。
検索、記事閲覧、導入事例の確認、他社との比較、社内調整。
こうしたプロセスは、必ずしもすべてが企業側のKPIに表れるわけではありません。
見えている行動だけを追うと、「まだ温度感が低い」「興味が薄い」と見えてしまう顧客も、実際には水面下でかなり深く検討していることがあります。
この状態で、マーケティングが「MQLを作ること」を主目標に置き、営業が「今すぐ商談化すること」を期待して受け取ると、どうしてもズレが生まれます。
マーケティングから見れば、必要な条件を満たしたリードを渡している。
営業から見れば、まだ十分に熟していない。
どちらかが間違っているというより、顧客の検討プロセスをどう捉えるかがそろっていないのです。
ここで重要になるのが、リード件数やスコアだけではなく、その顧客がどんな情報に触れ、どこまで検討を進めているのかという文脈です。
たとえば、同じ資料請求でも、初回接点としてダウンロードした人と、半年以上かけて複数の導入事例や比較コンテンツを読み込んだうえで請求した人では、意味合いがまったく異なります。
にもかかわらず、その違いが営業に伝わらなければ、顧客の検討段階に合わないコミュニケーションが起きやすくなります。
顧客の検討度合いを「点」ではなく「線」で捉える

従来のモデルでは、顧客の関心が顕在化した瞬間を捉え、すばやく営業につなぐことが重視されてきました。この考え方は今も有効です。
ただ、顧客の情報収集行動が変わった現在では、それだけでは十分ではなくなっています。
いま必要なのは、顧客の行動を「問い合わせの有無」だけで見るのではなく、
検討がどのように深まっているかを複数の接点から捉えることです。
セミナー参加後に別の関連資料も見ているのか。
導入事例を複数回読んでいるのか。
比較記事や料金ページに何度もアクセスしているのか。
こうした行動は、まだ問い合わせではなくても、確実に検討が進んでいる兆候です。
この兆候を無視してしまうと、マーケティングは「まだ成果になっていない」と判断しやすく、営業は「商談化しにくいリードが多い」と感じやすくなります。
逆に言えば、こうした兆候を正しく捉えられれば、MQLの数だけに依存しない形で、顧客の変化を把握できるようになります。
ここでさらに重要なのが、その文脈を部門間で共有できているかどうかです。
いくら顧客の行動データが存在していても、それがマーケティング部門の中だけにとどまり、営業に渡る時点で件名や属性情報だけになってしまえば、せっかくの検討文脈は失われます。
営業は再びゼロから状況を探ることになり、顧客にとっても「自分のことを理解されていない」体験が発生しやすくなります。
約9割が未完了?データ統合の遅れが生む部門間の分断
実際、今回の調査では、自社に散在する顧客データを一元的に管理・統合できている企業はまだ少数でした。
データ統合・一元管理を完了している企業は11.9%にとどまり、88.1%は未着手または未完了という結果です。
つまり、多くの企業では、顧客を複数接点で見ていくための土台そのものが、まだ十分に整っていません。

この数字は、単にシステム導入の遅れを意味するものではありません。
もっと本質的には、マーケティングと営業が、同じ顧客を同じ時間軸で見られていないという問題を示しています。
たとえば、顧客は半年かけて情報収集を進め、ようやく資料請求したかもしれません。
しかし営業側から見ると、その履歴が見えなければ「今日資料請求したばかりの人」にしか見えません。
逆にマーケティング側は、複数接点を見て「かなり検討が進んでいる」と思っていても、その情報が共有されなければ、営業は適切な対話の入り口を持てません。
このズレは、営業の力量やマーケティングの質だけの問題ではありません。
顧客理解の単位が、部門ごとに切れてしまっていることが根本原因です。
だからこそ、リードの量だけを議論しても、本質的な改善にはつながりにくいのです。
まとめ
MQLは重要です。
ただし、それはあくまで顧客の変化を捉える1つの指標であり、単独で完結するゴールではありません。
本当に見るべきなのは、その顧客がどのような情報に触れ、どんな課題意識を持ち、どこまで検討を深めてきたのかという流れです。
そこまで見えてはじめて、営業は「説明」ではなく「確認」から会話を始められるようになります。
つまり、マーケティングと営業をつなぐべきなのは、件数ではなく文脈です。
件数だけでは、顧客がいまどこにいるのかは見えません。
一方で文脈が見えれば、たとえまだ問い合わせに至っていなくても、どの顧客が前に進んでいるのかを把握しやすくなります。
では、その文脈はどうやって生まれ、どうやって共有されるのでしょうか。
ここで次に問われるのが、そもそも自社のデータが使える状態にあるのか、そしてそれを扱うスキルや仕組みがあるのか、という問題です。
次回は、「データはあるのに使えない」企業がなぜ多いのか。約9割が越えられない整備とスキルの壁をテーマに、データ活用が進まない本当の理由を掘り下げます。
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