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【CRMの輪郭】ファクトリエが紡ぐ、消費者と生産者の至極の関係

現在、アパレル市場において、国内生産比率はわずか3%。25年前の1/10以下にまで減少し、低下の一途をたどっている。この要因の一つにファストファッションの台頭による海外への生産拠点の移転、そして日本の工場への過剰な原価抑制のしわ寄せがある。結果的に今、日本のものづくりはもはや虫の息と言える状態だ。

「日本のものづくりから世界一流ブランドをつくる」

その想いから「Factelier(ファクトリエ)」は立ち上がった。彼らはメイドインジャパンにこだわり、高品質な製品を提供している。

しかし、コストの安い海外で作ったものと価格において勝ち目はない。思いだけでも良くない。そんな中で、彼らはいかにブランドとして成長していくのか。そのヒントは、丁寧にものづくりをし、お客様との関係を築くことにあった。

工場とユーザーを直接結べば、シナジーが生まれる

— 読者には、ファクトリエを知らない方もいますので、御社のブランドについて、あらためて説明いただいてもよろしいですか?

深澤:ファクトリエはメイドインジャパンの工場直結ファッションブランドで、日本のものづくりから世界一流ブランドをつくることを目指しています。日本には、世界から認められるような良いモノづくりをする工場がたくさんあります。しかし、アパレルの市場環境や流通構造の問題で、日本の工場は非常に苦しい状況にあります。そんな工場を元気にし、ジャパンメイドの良質なものを世の中に広めたいという想いから、今のファクトリエがあります。

現在、ファストファッションの台頭により、アパレルメーカーはコスト削減するため、生産拠点を海外に移したり、国内工場に過剰に低価格なコストでの生産を依頼するようになりました。一見、海外移転であれば仕事がないのでは?と思うかもしれませんが、技術のある現在国内の工場はいま、フル回転で稼働しています。

ところが、価格競争に巻き込まれて安い価格で生産を依頼されているため、いくら生産しても儲からない。儲からないと設備投資も新しい人材も雇えず、将来も見えないので意欲低下を招き、さらに工場経営が厳しくなる…という負のスパイラルに陥っています。

その現状を打破しアパレル業界に革新をもたらすことで、日本のものづくりを元気にしたいとおもっています。

ライフスタイルアクセント株式会社 深澤 大気
Yahoo! JAPAN でUXデザイナーとして活躍して、2016年11月ファクトリエに入社。 100年後を見据えた、お客様との関係構築を目指し、現在はファクトリエの顧客体験デザインに尽力している。 2015年には「一人から始めるユーザーエクスペリエンス」を出版する。

—   現在の工場が苦境に立たされているのは目に浮かびます。この負のスパイラル、いかに解決しようと考えているんですか?

深澤:2つの方法での解決を目指しています。

1つ目は、製品の流通をシンプルにすること。具体的には、卸などの中間業者を省略し、工場とお客様を直接繋ぐ仕組みにしました。2つ目は、価格の決定権を工場が持つということ。これは世界初です。私たちは、工場の方々と何度も打ち合わせを重ねて製品を作っていきますが、最終的に工場が「これだったらこの価格」と納品価格を指定します。私たちはその倍でお客様に提供しています。

これらを実践することで、工場は適切な利益を得ることができ、消費者には良質な製品を通常流通価格の50%以下で届けることができるようになったのです。

お客様は、支援者である

—  非常に合理的な仕組みですね。とはいえ、メッセージング、いわばマーケティングも重要だと思いますが、そこでは何を?

深澤:特別なことはしてないです。工場で良いものをつくり、その良さをお客様に伝え、届けているだけ。“作る・伝える・届ける”、この3つを徹底しているだけです。

ファクトリエのきっかけともなった山田のフランス留学中の体験そのもので、ものづくりからしか本物のブランドは生まれません。だからこそ、とにかくこだわりを持って本当にいい物を作ることがスタート地点です。

弊社は商品の配送料も設けていますし、セールも絶対にしません。それは結果的に、ものづくりの品質を下げたり、お客様にそのコストが跳ね返ってきているのです。私たちはものづくりにもお客様にも真摯でありたいと考えています。

だからこそ、多くのお客様に喜んでいただけていますし、一度購入してくださった方はリピートしてくださる場合が多いです。お客様は神様ではなく、“支援者”だと私たちは思っていて。お客様に迎合しすぎることなく、工場と一緒にこだわりをもったものづくりができているのではないでしょうか。

—   つくるの部分は工場のこだわりに集約されているわけですが、“伝える”という点で気をつけていることは?

深澤:サイトで動画や文章でこだわりのポイントや工場の説明などは徹底的に行っていますが、ネットだけではなく、リアルでも“伝える”取り組みはいろいろやっています。お客様を工場へ招待し現地でものづくりの現場を見てもらったり、ものづくり体験をしてもらう「工場ツアー」や、店頭でのものづくりイベント、職人さんに店舗に立ってもらい、接客していただくイベントを定期的に開催しています。職人さんが店頭に立って接客するというのも、他に類を見ないのではないでしょうか。

商品にまつわるストーリーを直接知っていただくことで、お客様のロイヤルティー向上に繋がりますし、また、工場側としてもお客様と直接関わりを持てる貴重な機会になっています。

KPIは、ない

 —   製品のこだわりやストーリーを伝える、届けるという想いがとても素敵です。ここで気になるのが、KPI、どのように設定しているのでしょうか?

深澤:いくつかの指標はありますが、ないに等しいですね。製品へのこだわりやストーリーが“お客様にいかに伝わっているか”“きちんと伝わっているか”、ただそれだけを目標においています。短期間で計測することが難しいぶん、経営側としてはすごく我慢が必要なことですが。

—   その意識は社内で統一されている、と。

深澤:ええ、もちろん。その思いは採用にも反映されています。弊社は「日本の工場(ファクトリー)から世界一流ブランドを作る」というビジョンを掲げていますが、このビジョンへの強い共感を重要な採用基準に設定しています。スキルはもちろん必要ですが、採用過程にある全社員の前のプレゼンで、仲間達がその思いに納得してはじめてチームに迎える、それくらい大事にしています。

初めから熱い情熱をもった人たちが共感して入社してきてくれるので、その意識を後から植え付けるということもなく、ただそこに在るものとして当然のように全員が持っているものですね。

製品へのこだわりやストーリーが“お客様にいかに伝わっているか”、を代表するエピソードをもう一つ紹介すると、弊社はエンジニアが店頭に立って接客をすることもあります。

彼が閉店後まで「この商品のここがいい」や「生産者のこだわりは〜」と、お客様と話し込んでしまったこともあるくらい、それだけの情熱を持ったメンバーがいます。そのくらい暗黙知としてビジョンが共有されているからこそ、それぞれが1つの目標に向かって自走できるのかなと思います。

—   明確な課題意識と、それに対するビジョナリーなコンセプトに共感して走る組織。面白い。

深澤:企業として利益を求めるのはもちろん大切なこと。ただ、私たちは利益を追求することを第一に考えていません。繰り返しになりますが、まずは良いものづくりをして、それをお客様に伝え、届けること。この3つの工程に対して徹底的に考え抜くことを大切にしています。

だから奇をてらった戦略もやらない、新しいツールが出たからといってすぐに食い付かない。今のマーケティングの世界ですと、機械学習やAIなどがホットですよね。

きっと、「他も使っているからウチも」という上司を持つ方もいるでしょうが、何のために導入するのか、その目的を果たすために必要であれば使えばいい。目的と手段が入れ替わってはいけないんです。

とにかく、当たり前のことを当たり前にやる。このシンプルな思考で課題解決に挑み、日本の工場から世界一流ブランドを作っていきたいと思っています。

※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なる場合があります。ご了承ください。

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