「売り込みだけ、PRだけは絶対にしない」日本カラー工業が、難しい化学を“毎週楽しみな読み物”に変える方法
メンバー紹介
- 導入前の課題
-
化学素材の受託加工という事業は専門性が高く、専門外の人には自社の技術や強みが伝わりにくいという難しさがありました。また、認知から実際の相談・発注に至るまでの検討期間が長く、顧客との継続的な接点づくりが課題となっていました。
- 選んだ理由
-
「売り込み」や「PR」を一切やめ、難しい化学を身近な疑問やユーモアに変換した読み物コンテンツを週1回配信。「自分たちが面白いと思えるか」を基準に、徹底した「自分ごと化」「やさしい翻訳」「目を引くビジュアル」にこだわりました。
- 得られた効果
-
評価をつけた読者の8〜9割が自由記入欄にコメントを残すほどの高エンゲージメントを獲得。「毎週水曜日が楽しみ」「隣の席の同僚にも転送した」といった熱量の高い声が寄せられ、読者とSNSのような双方向のコミュニケーションをメールで築くことで、顧客が困ったときの「第一想起」となる遅効性のファン化に成功しています。

優れたメール施策を表彰する「メール大賞」において、ユニーク賞を受賞した日本カラー工業株式会社(以下、日本カラー工業)。
同社は、電子材料や化粧品原料などを扱う化学素材メーカーから依頼を受け、製造や加工を担うBtoB企業です。
「受託加工」と聞くと、専門外の人にはなかなかイメージしにくいかもしれません。この事業について、企画課の町田氏はウェビナーの中でこのようにたとえてくれました。
たとえば「すっごくおいしいピザが食べたい!こだわりの素材も開発した!」とします。でも、それをどう作っていいかわからないし、ピザ窯なんて当然ない。そんなとき、「うちにはシェフも準備しているし、石窯もあるからぜひ使ってください」と提案するのが、私たちの受託加工です。(町田氏)
高い技術力と設備で、ものづくりを裏側から支える存在である一方、化学素材の受託加工という事業は、専門外の人にはなかなかイメージしにくいものでもあります。
そこで同社がメールで届けているのは、自社の技術や設備の紹介だけではありません。
「湿度100%は、ビシャビシャじゃないの?」
「ナフサって、そもそも何?」
「冷えたビールを落としたとき、吹きこぼれにくくするには?」
日常の中で感じる素朴な疑問や、思わず誰かに話したくなるテーマを入り口に、難しい化学をわかりやすく、時にはクスッと笑える読み物へ変えているのです。
運用を担当するのは、企画課の山野菜摘氏と町田光里氏の2名。週1回の配信を続けながら、すぐに製品を売ることではなく、「この会社のメールは面白い」と感じてもらい、困ったときに日本カラー工業を思い出してもらうことを目指しています。

受賞メールでは、「湿度100%」という身近な疑問を取り上げ、「湿度100%は、ビシャビシャじゃないの?」という問いから話を始めています。
さらに、湿度によって髪がまとまりにくくなるといった身近な悩みを重ねることで、専門的なテーマを、読者が自分の体験として受け取れる内容へ変えています。
いきなり化学の定義や仕組みを説明するのではなく、まず「それ、自分も疑問に思ったことがある」と感じてもらう。その後で専門知識をやさしく解説することが、日本カラー工業のメールの特徴です。
目次
すぐに売るのではなく、「困ったときの第一想起」をつくる
化学素材の受託加工というビジネスにおいて、会社を知ってもらった直後に取引が始まるとは限りません。顧客は、設備や加工技術の適合性だけでなく、「この会社に任せても大丈夫か」「長く付き合えるか」と慎重に検討を重ねるからです。
「認知されてから実際に購入いただくまで、すごく長い時間がかかってしまいます。だからこそ、お客様が必要な状況になったときに、『そういえば、日本カラー工業という会社があったな』『あそこなら相談できるかもしれない』と思い出してもらうのが、日本カラー工業の戦略です」(山野氏)
ウェビナーの講演資料では、顧客の「困ったときの第一想起」を、次の要素に因数分解しています。
第一想起 = 接点量 × 記憶化 × 好意形成 × 信頼蓄積 × 適合度
毎週メールを届けて接点を重ね(接点量)、印象に残る内容で覚えてもらい(記憶化)、親しみや好意を育てる(好意形成)。そのうえで、技術への信頼(信頼蓄積)と顧客の課題が重なった(適合度)ときに、相談先の候補として思い出してもらうという戦略です。
メールは、すぐに成果を求める施策ではなく、「遅効性のファン化」を担うものと位置づけています。今すぐ対応が必要な顧客はほかの施策でフォローし、メールには長期的な関係づくりの役割を持たせています。

企画の基準は、「自分たちが面白いと思えるか」
日本カラー工業のメールマガジンは、山野氏と町田氏の2名が中心となって企画から制作までを行っています。企画を採用する際に最も重視しているのは、「自分たち自身がそれを面白いと思えるか」という極めてシンプルな基準です。
「一度は面白いと思って作った企画でも、翌日に読み返すと『思ったほど面白くないかも』と感じることがあります。その場合は予定通りに配信せず、2人で『ここが面白くない』『もっとこうしたらわかりやすくなるかな』と率直に話し合って見直しています」(町田氏)
担当者自身が面白いと感じられないものを、読者に楽しんでもらうのは難しい。シンプルな基準ですが、この妥協のない姿勢が、日本カラー工業らしいメールの一貫性を支えています。
難しい化学を、「体験」と「言葉遊び」に変える
専門知識を正確に説明しようとすると、どうしても専門用語が増え、研究者や技術者以外には読みづらい内容になりがちです。
そこで同社は、化学の知識をそのまま伝えるのではなく、まずは読者の日常や体験に置き換える工夫をしています。ウェビナー内で話題になったのが、「ナフサ」という化学用語をテーマにした回です。
「たとえば『ナフサ』という言葉から、『フサフサしているのかな?』とちょっとオヤジギャグ的な発想を得て、モフモフした犬の画像を使ったりするんです(笑)。率直に疑問に思ったことや言葉遊びから、『本当にそこにつながるの?』という素朴な疑問をメールマガジンにしています。私は文系出身で化学のことが全然わからないからこそ、私が見てもわかりやすいか、面白いかを大事にしていますね」(山野氏)
専門家にしかわからない説明ではなく、化学になじみのない人でも、
「少しわかった気がする」
「化学は意外と身近かもしれない」
「誰かにも教えたい」
と思える状態を目指しているのです。
コンテンツを支える3つのポイント
講演資料では、コンテンツを企画する際に意識しているポイントとして、次の3つが紹介されています。
1.自分ごと化・共感
単なる情報提供で終わらせず、読者の日常や体験と重なる入り口をつくります。
「自分にも似た経験がある」
「そういえば、これを疑問に思ったことがある」
と感じてもらうことで、専門的な内容を自分に関係のある話へ変えます。
2.難しい化学を噛み砕く
専門用語を並べるのではなく、日常の言葉やたとえを使って説明します。
すべてを深く理解してもらうことよりも、まず「化学は思っていたより身近で面白い」と感じてもらうことを大切にしています。
3.周りに見せたくなるビジュアル
日本カラー工業が特に工数をかけているのが、アイキャッチ画像やメールマガジン内のビジュアルです。
内容を一目で理解できることに加え、思わず隣の人に見せたくなる面白さを持たせています。
企画、文章、画像制作を2名で担うため、制作の負荷は小さくありません。それでも、専門的な化学を直感的に伝えるうえで、ビジュアルは欠かせない要素として重視しています。

化学の話だけに偏らせない、配信コンテンツのバランス
日本カラー工業では、読者アンケートも参考にしながら、毎週のメール配信に飽きられないよう、コンテンツのバランスを調整しています。
講演資料作成時点の内訳は、次のとおりです。
化学の豆知識:58%社員の日常:16%
展示会・その他:14%
技術:12%
中心となるのは化学の豆知識ですが、技術情報だけを送り続けているわけではありません。
担当者の体験や社内の日常、展示会の話題なども取り入れ、研究者だけでなく、営業担当者や化学に少しでも関わる人が、仕事中にクスッと笑えるような構成にしています。

メルマガが「SNS」になる。読者を“沼らせる”双方向のコミュニケーション
同社では開封率やクリック率といった数値目標だけで施策の成功を判断しません。重視しているのは、読者から届くコメントなどの「定性的な反応」です。
メールの最後には星5段階で評価するアンケートフォームを設置していますが、驚くべきことに、評価をつけた人のうち「8割から9割」が自由記載欄にもコメントを残してくれるそうです。
「たとえクリック率が悪くても、ノリノリなコメントが来ると『刺さる人には刺さったな』と安心します。『水曜日を待っていました』という温かいコメントや、『隣の席の人にも転送しました』という声をいただいたときは、誰かに教えたくなってくれていることが分かって本当に嬉しかったですね」(町田氏)
特筆すべきは、読者から届いたコメントへの対応です。同社では、もらった感想を紹介するだけでなく、次の週のメールマガジン内で自ら「ツッコミ」を入れて返すようにしています。
企業からの「一方通行の配信」ではなく、まるでSNSでやり取りをしているかのような「双方向のコミュニケーション」が生まれ、読者はさらに日本カラー工業のファンとして“沼って”いく仕組みが出来上がっているのです。
「売り込みだけ、PRだけ」は絶対にしない
ウェビナーの終盤、「読者と向き合ううえで、これだけはしないと決めていることは?」という問いに対し、2人は力強くこう答えてくれました。
「売り込みだけ、PRだけというのは絶対にしません。話題は何でもよくて、たとえば私たちがマラソンに出た話など、全然関係のない身近な話題から入り、最後に無理のない範囲で私たちの仕事につなげて伝える。売り込みだけにならないようにすることを心がけています」(山野氏)
同社のメールは、読み物として楽しんでもらうことを大切にしています。
会社が伝えたい製品情報や技術情報だけを並べるのではなく、まず身近な話題から入り、読者が興味を持てる内容をつくります。
会社の話を一切しないのではなく、会社の話だけにしない。
読者が楽しめる時間を先につくり、その流れを壊さない形で、自社の専門性や事業へ接続することを大切にしています。
売り込まないからこそ、会社の名前が残る
日本カラー工業のメール施策の成功の裏には、奇抜なアイデアだけでなく、読者を楽しませるための泥臭い努力があります。
2人が本当に面白いと思えるまで企画を練り直し、難しい化学をやさしく翻訳し、読者からの声に耳を傾けて言葉を返す。すぐに売ることを急がず、読者の記憶に残ることを最優先にしています。
その誠実な姿勢と小さな接点の積み重ねが、将来顧客が困ったときの「第一想起」へとつながっていくのでしょう。専門性の高いBtoB企業であっても、情報を難しいまま届ける必要はありません。日本カラー工業の取り組みは、ファンを育てるコンテンツのあり方を私たちに教えてくれます。
実際に読者からは、「毎週楽しみにしている」「隣の席の人にも転送した」といった反応が寄せられています。
その小さな接点の積み重ねによって、日本カラー工業への親しみや信頼を育て、将来、顧客が困ったときの第一想起につなげることを目指しています。
専門知識を自分たちの言葉でやさしく翻訳し、読者が過ごす時間を楽しいものに変える。その姿勢が、日本カラー工業への信頼を積み重ね、将来の相談につながる関係を育てています。
「メール大賞」特別ウェビナーを開催しました
「メール大賞」の受賞企業をゲストに迎え、成果につながるメール施策の考え方や、企画・運用の裏側を伺う特別ウェビナーを開催しました。
本記事は、日本カラー工業 企画課の山野菜摘氏、町田光里氏にご登壇いただいたウェビナーの内容と講演資料をもとに再構成しています。
写真右から
町田 光里 氏
日本カラー工業株式会社 企画課
山野 菜摘 氏
日本カラー工業株式会社 企画課
李 暁貞 氏
WILLER MARKETING株式会社 マーケティング戦略部
和田 直之
シナジーマーケティング株式会社 マーケティングプロデューサー
※部署名・役職、運用体制、配信内容などは、取材・講演当時のものです。
「メール大賞」でインパクト賞を受賞したWILLER MARKETING株式会社は、SNSや社内から各界隈の文脈を集め、配信日、路線、空席状況を確認したうえで、読者の移動につながるメールを設計しています。ファンに伝わる表現と予約動線を両立する運用についても、別の記事でご紹介します。
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。