「親切じゃないメールは配信したくない」WILLER MARKETINGが、ファンの文脈と予約動線を両立する方法
メンバー紹介
- 課題
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約170万人(2026年6月時点)のメルマガ会員に向けて、単に路線情報や旅行商品を案内するだけでは、読者の「旅行に行きたい」という気持ちを十分に引き出せないという課題がありました。また、特定のファン層(推し活など)に刺さる企画を立てる際、それ以外の読者を置き去りにしてしまう懸念もありました。
- 改善したこと(施策)
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SNSのトレンドや社内の「ご近所リサーチ」から企画の種を集め、特定のファンにだけスッと伝わる表現(絵文字やヒントなど)を絶妙なバランスで組み込みました。さらに、単に話題性だけで配信するのではなく、「配信のタイミング」「移動動線」「空席状況」の3つを徹底的に事前確認し、読者をがっかりさせない「親切なメール」設計を貫いています。
- 得られた効果
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読者の中に「移動したい」という動機を生み出し、そこから自然に予約へとつながる動線の構築に成功しました。話題のイベントと空席状況が一致したベストなタイミングで案内を届けることで、読者の期待を裏切らず、満足度と事業成果(予約)を両立しています。

優れたメール施策を表彰する「メール大賞」において、インパクト賞を受賞したWILLER MARKETING株式会社(以下、WILLER MARKETING)。
同社は、WILLERメルマガ会員約170万人に向けて、高速バスやフェリー、旅行に関する情報を配信しています。
しかし、彼らがメールで届けているのは、単なる時刻表や無機質なツアーの案内ではありません。
「きらきら光る夜景を見に行きたい」
「澄んだ空気の中で深呼吸したい」
「どうしても、あのライブに行きたい!」
そんな、季節の移ろいやSNSのトレンド、さらにはライブツアーの当落発表など、読者の心がふっと動くタイミングを捉え、思わずカバンに荷物を詰めたくなるような“鮮やかな移動のきっかけ”をつくっているのです。
ウェビナーで語られたのは、目を引く企画やクリエイティブの表面的な話だけではありませんでした。企画の集め方、ファンの文脈を取り入れる際のさじ加減、スムーズな予約動線、そしてイベント前後の空席確認まで。一通のメールを「親切で心地よい体験」にするための、驚くほど地道な運用体制があったのです。

受賞メールでは、「七夕」と「推し活」を重ね、「会いたい人のもとへ向かう移動」をテーマに企画を展開しています。
特定のグループ名を前面に出すのではなく、ファンなら気づける表現を取り入れながら、高速バスの予約へと自然につなげている点が特徴です。
その表現は、担当者の感覚だけで生まれたものではありません。SNSや社内から各界隈の情報を集め、配信日、路線、空席状況まで確認した上で、一つの企画として形にされています。
目次
路線情報ではなく、「移動のきっかけ」を届ける
WILLER MARKETINGでは、高速バスの定期メールを週2回、フェリーの定期メールを隔週、プレミア会員向けメールを月2回配信しています。
限られた人数の体制で継続的に配信する中、特に時間をかけているのが、数多くのアイデアから「何を届けるか」を決める企画の取捨選択です。この工程について、担当の李氏はウェビナーで次のように語ってくれました。
「配信する人も一人のメルマガの受け手です。だからこそ、その情報を見たときに自分が旅行に行きたくなるか、このバスに乗りたくなるかという『移動のきっかけができるようなネタ』を第一のポイントとして考えています」(李氏)
たとえば、夏の暑い盛りに上高地方面の高速バスを案内したいとき。ただ「〇〇発・上高地行き」と路線情報をポンと置くことはしません。
「うだるような暑さを抜け出して、ひんやりとした風が吹き抜ける避暑地へ行きませんか?」という情景が目に浮かぶメッセージとともに、上高地以外の行き先や周辺の涼しげな観光情報もあわせて紹介し、読者が自分に合った場所を考えられるよう選択肢を広げています。
企画の種は、SNSと社内の“ご近所リサーチ”から
WILLER MARKETINGでは、月1回の企画会議で、翌月以降のイベントや配信テーマを整理します。
会議に持ち込まれるのは、すでに形になった企画だけではありません。
エンターテインメントイベント、季節行事、スポーツ、花の開花情報、SNSで話題になっている観光地など、日々の生活や業務の中で見つけた情報を、まずキーワード単位ですべて書き出します。
「今はバラが満開らしい」
「6月ならアジサイが見頃になる」
「SNSで上高地が話題になっていた」
この段階では、メールとして使えるか、売上につながるかは判断しません。まずは広く集め、その後に配信日、イベント日程、バスの発着エリア、移動需要との相性を確認しながら、実際に使うテーマを絞り込みます。
情報源はSNSだけではありません。
メールの運用担当者はSNS運用も兼任しており、日常的にトレンドへ触れています。しかし、特定のファン層やコミュニティーの感覚を、外側から完全に理解するのは簡単ではありません。
そこで頼りにしているのが、社内にいる「その界隈に詳しい人」です。
「その界隈の情報は、その界隈の人しかわからないと思うんです。だから社内の推し活をしている人や、趣味を持っている人に『こういうネタに困ってる』と相談して。できるだけその界隈の人になら伝わるだろうっていう情報を信じて配信しています」(李氏)
企画について相談すると、推し活や趣味を持つ社員から、「このグループでは今これが話題になっている」「この見せ方ならファンに伝わる」といった情報が集まります。
ウェビナーでは、こうした身近な情報収集を“ご近所リサーチ”と表現しました。
担当者が語ったのは、「その界隈の情報は、その界隈の人しかわからない」という考えです。大規模な調査だけでは拾いにくい生の感覚を社内から吸収することで、読者の文脈からずれない企画へと整えています。

「分かる人だけが気づく」は、ほかの読者を排除するためではない
推し活やライブツアーをテーマにする場合、アイドルやグループの名前を直接書けば、対象となるファンにはわかりやすくなります。
一方で、そのグループに関心のない人が受け取れば、「自分には関係のない情報だ」と感じてしまう可能性があります。
「情報の濃度が高すぎると、自分への情報ではないなと思われてしまいます。なので、アイドルのグループ名を直接書くのではなく、メンバーカラーの絵文字を入れたりして、わかる人だけが気づくようなことに心がけています」(李氏)
ウェビナーで李氏が語ったように、WILLER MARKETINGでは、ファンに伝わることと、それ以外の読者に不親切にならないことの両方を考え、表現の濃度を調整しています。
たとえば、グループ名やライブ名を直接記載するのではなく、メンバーカラーを想起させる絵文字や、ファンなら気づけるヒントを使います。
対象となる人には「自分たちに向けられた情報だ」と伝わる一方、関係のない読者にとっては、特定の層だけに向けた強すぎる表現になりかねません。
これは、秘密の言葉を使って人を選別するための「隠語」ではありません。
伝わる相手には深く伝えながら、それ以外の読者を置き去りにしないための調整です。
話題になりそうでも送らない。企画を選ぶ3つのチェックポイント
関心が集まっているイベントであっても、必ずメールの企画として採用されるわけではありません。
WILLER MARKETINGでは、イベント情報を配信する際、主に3つの観点を確認しています。
1.タイミング
配信日と、読者の関心が高まる日が合っているかを確認します。
たとえば、ライブツアーの当落発表日と定期メールの配信日が離れていれば、読者の気持ちが動いているタイミングを逃してしまいます。
2.移動動線
イベント会場までの路線を実際に案内できるかを確認します。
話題性のあるイベントでも、会場へ向かう移動手段を提示できなければ、興味を持った読者の次の行動にはつながりません。
3.予約可能性
イベント前後に、案内できる空席があるかを確認します。
メールを見て「予約しよう」と思っても、該当する便が満席であれば、読者の期待を不便や失望に変えてしまいます。
講演資料では、同じ月に複数のライブツアーの当落発表が重なったケースを例に、配信日、路線、空席状況を照らし合わせ、扱う企画と見送る企画を判断するプロセスが紹介されました。
配信日と当落発表日が一致していても、複数のグループの発表が重なり、一つの企画に絞りにくい場合があります。イベントが帰省需要の高い時期と重なり、十分な座席を案内しにくい場合もあります。
話題性だけで配信を決めるのではなく、読者のその後の移動まで支えられるかを見極めているのです。

“面白い”を、予約につなげる動線設計
WILLER MARKETINGのメールは、読者に楽しんでもらうコンテンツであると同時に、事業として予約につなげる役割も担っています。
そのため、メールを開いた直後には、予約への動線をわかりやすく提示します。
ただし、予約ボタンを目立たせるだけでは、メール全体を読んでもらえません。
「メルマガの目的はやはり売上を高めることにあるので、開いた瞬間は予約しやすい構造にしています。でも、一番下にあるボタンまで読んでほしいときは、件名やヘッダーに『このメールの最後にもうちょっとお得な情報がありますよ』といった一文を入れるようにしています。これでクリック数がかなり違ってくるんです」(李氏)
最初に予約しやすい構造を用意しながら、読み進めたくなる理由もつくる。「すぐに予約したい人」と「内容を楽しみながら検討したい人」の両方を考えた設計です。
また、目を引くクリエイティブも丸投げにはしません。社内のデザインチームに対して、「こういう雰囲気で、こういうフォントで、参考画像はこれ」と、背景から訴求文まで細かく意図を伝え、途中でも「この意図で合ってますか?」とすり合わせを行っているそうです。
面白さをデザイナー任せにせず、運用担当者が「何を感じてほしいか」「どこへ進んでほしいか」まで言語化することが、少人数でもメールの質を保つポイントです。
「親切じゃないメールは配信したくない」
ウェビナーの終盤、「読者と向き合う上で、これだけはしないと決めていることは?」という問いに対し、李氏は力強くこう答えてくれました。
「『親切じゃないメールを配信したくない』と考えています。例えば夏祭りの情報を発信するときも、単なるスポットだけではなく、開催日や見どころ、そして仙台なら『宮城駅じゃなくて仙台駅のバス』を提示するなど、もうちょっと絞った路線を案内します。いざ予約しようとしたときに、何一つ不便がない状態にさせたいんです」(李氏)
さらに李氏はこう続けます。
「貴重な時間を使ってメールを開いて読んでくださっている以上、その時間を少しでも有意義な時間にさせたいなと感じています」(李氏)
ファンの文脈を捉えることも、トレンドに合わせることも、わかりやすい予約動線をつくることも、すべては「読者の時間と行動を無駄にしない」という考えにつながっています。
WILLER MARKETINGのメールを支えているのは、話題を捉える華やかな企画力だけではありません。心が躍る企画の先に、迷わず、がっかりすることなく快適なシートを予約できる状態まで整えておくこと。
目を引くクリエイティブの裏側にある、この地道で徹底した「親切さ」こそが、多くの読者の心を動かし、今日も誰かを最高の旅へと送り出しているのです。
まとめ:派手な企画を支えているのは、地道な親切さ
WILLER MARKETINGのメールを支えているのは、話題を捉える企画力だけではありません。
「この情報で移動したくなるか」を考え、各界隈の文脈を理解し、配信日、路線、空席状況を確認する。関心のある人に伝わる表現と、それ以外の読者を置き去りにしない配慮も両立させています。
面白い企画の先に、迷わず予約できる状態まで用意する。
目を引くクリエイティブの裏側にある、この地道な親切さこそが、WILLER MARKETINGのメールを支えています。
「メール大賞」特別ウェビナーを開催しました
「メール大賞」の受賞企業をゲストに迎え、成果につながるメール施策の考え方や、企画・運用の裏側を伺う特別ウェビナーを開催しました。
本記事は、WILLER MARKETING株式会社 マーケティング戦略部の李 暁貞氏にご登壇いただいたウェビナーの内容と講演資料をもとに再構成しています。
写真左から
和田 直之
シナジーマーケティング株式会社 マーケティングプロデューサー
李 暁貞 氏
WILLER MARKETING株式会社 マーケティング戦略部
町田 光里 氏
日本カラー工業株式会社 企画課
山野 菜摘 氏
日本カラー工業株式会社 企画課
※部署名・役職、運用体制、会員数などは、取材・講演当時のものです。
「メール大賞」でユニーク賞を受賞した日本カラー工業株式会社は、製品を売り込むメールではなく、身近な疑問やユーモアを通じて“化学の面白さ”を届けています。必要になったときに思い出してもらうための独自のメール戦略についても、別の記事でご紹介します。
※記載されている内容は取材当時のものであり、一部現状とは異なることがありますが、ご了承ください。