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戦略とは
~“データ活用”の7つのプロセスについて考えるために~

はじめに

“戦略”という言葉は、経営戦略、組織人事戦略、マーケティング戦略、商品戦略、価格戦略、販売戦略、広告戦略など、ビジネス現場において頻繁に様々なレベルで使われている。
そして、この“戦略”のために“データ”をうまく使っていくということが、“データ活用”に期待されていることだと思う。[1]

では、その“戦略”とは何なのか。

先日、アメリカ陸軍戦略大学校のテキストに使われているという『孫子とクラウゼヴィッツ』という本を紹介してもらった。その本を読み始め、さらにそこから関連書をいくつか数珠つなぎに読んでいったのだが、それらには、マーケティングや経営のビジネス本にはあまりないような“戦略”に関する示唆が多くあり、“データ活用”を理解することにつながる内容でもあった。

ところで前回、分析力だけでは武器にならない~“データ活用”を成功させる4つのポイント~
“分析”は7つの中の1つのプロセスでしかなく、やはり分析力だけでは武器にならない
そして
“データ活用”のプロセスを回すためには、「“分析”より“総合”、“ロジカル思考”より“クリエイティブ思考”が重要だ!」
と、あえて言い切った。

この“データ活用”の7つのプロセスに関しては、次回以降全5回(予定)でまとめていこうと思う。

第1回 集計・分析とは
第2回 データビジュアライゼーションとは
第3回 要約とは
第4回 統合・総合、施策の企画立案・実行とは
第5回 調査・分析企画、情報収集・整形とは

しかし、その各論に入る前に
「7つプロセスというが、そもそも“データ活用”は“分析”だけでいいのではないか?」
「なぜ“データ活用”に“クリエイティブ思考”が重要なのか?」
などの疑問があるのではないかとも思うので、この点に関して、もう少し考えを深めておきたい。
これは非常に重要なポイントであり、“データ活用”を成功させるためにも、しっかりと理解しておく必要がある。

そして、このポイントの理解を深めるために“戦略”とは何かを知ることは、意味があると思うので、今回は“戦略”について、まとめていきたい。

戦略とは

Wikipediaによると

「戦略(せんりゃく、英: Strategy)は、一般的には特定の目標を達成するために、長期的視野と複合思考で力や資源を総合的に運用する技術・科学である。」

とある。[2]

また、知識創造理論の生みの親であり、世界的経営学者である野中郁次郎氏は、

  • 戦略とは、何かを分析することではない、本質を洞察しそれを実践すること、認識と実践を組織的に綜合すること
  • (自然)科学の方法論は価値観を排除するところから始まるが、実は戦略はすぐれて人間的現象であって、人間の価値観を源泉としている。
  • 事実は「目に見える」が、本質は「目に見えない」。データは事実であるが、戦略思考にはその背後にある真の意味やメカニズムを読む洞察力が要請される。
  • 戦略は、すべての分析的な言語で語れて結論が出るような静的でメカニカルなものではない。究極にあるのは、事象の細部と全体、コンテクスト依存とコンテクスト自由、主観と客観を善に向かってダイナミックに綜合する実践的知恵である。

と説明している。[3]

さらに、楠木建先生(一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授)は、

  • 企業の多くの戦略が、STP-4PやSWOTなどのフレームワークの「静止画の羅列」になっていること
  • それは塗り絵をやっているようなもので、本物の絵を書いているのとは違うこと
  • フレームワークの問題点は、往々にして「分ければ分かる」という分析に終始してしまうこと
  • 分けた1つひとつの要素がどのようにつながって、その結果、なぜ儲かるのかという「ストーリー」になっていないこと

を指摘し、その理由を、

  • 「それは、戦略が分業と分析によって作られているから」

と解説されている。

さらに

  • 「戦略の本質は、アナリシス(分析)ではなく、シンセシス(綜合)です。戦略を構想するとは、分業と分析によって集められた各要素をつなぐこと」

と説明されている。[4][5]

つまり、 “分析”をどれだけ行ったとしてもその延長線上には、“戦略”はないということ、そして、“分析”の対義語である“総合”がキーワードになってくることが明示されている。
“データ活用”には、分析以外のプロセスが必要であり、また“総合”のプロセスが重要だということである。

実践的知恵として

上記のような研究ではなくとも、多くのマーケターは、“分析”だけでは“活用”に至らないことを現場の経験知として持っていると思う。

一例をあげると、いくつものクロス集計を実施して、データ分析を行い、エクセルのシート何枚もの結果が出せたとしても、そのエクセルの数字に埋もれてしまい、次のアクションにつなげることができていないという状況を多くの方が経験しているのではないだろうか。

また逆に、データ分析レポートでおわらず、そこから戦略・施策の実行まで“データ活用”ができている現場では、分析し見出した事実から、その背後に隠れた本質を洞察し、解決策を立案している。
ニュートンが、リンゴが木から落ちるという事実から万有引力の法則を発見した話は有名であるが、これと同様の思考プロセスによって、分析結果から発想するということを実感されていると思う。

このような“戦略”を発想する思考プロセスを理解するためには、ビジネス書よりは歴史やスポーツから学ぶ方がおすすめである。

たとえば、『坂の上の雲』(司馬遼太郎)には、旅順攻囲戦、奉天会戦、日本海海戦などが描かれており、特に日本海海戦の丁字戦法はあまりに有名なのでご存知の方も多いだろう。しかし、その丁字戦法で勝利したという結果を知っているだけで、そこに至る過程を辿ったことがなければ、それを読み解いていくことで、戦略構想のプロセスを垣間見ることができると思う。

丁字戦法を構想する上で、当然ながら事前に“分析”は十分にされており、それぞれの戦艦数やその特性、砲撃力、機動力などは把握されていた。その分析結果から丁字戦法を決断していったプロセスは、“分析”的なものではなく、ダイナミックな“総合”の実践的知恵であったことを同著は伝えてくれると思う。

また、『ローマ人の物語 ユリウス・カエサル ルビコン以後[上]』は、カエサル(ジュリアス・シーザー)が「賽は投げられた」と言ってルビコン川を渡った後の物語であり、その中で、カエサルがローマ覇権確立へ大きく前進したファルサルスの戦いについて描かれている。

その戦いに臨むカエサルが、場所、戦力などの“分析”から、どのように“戦略”を考え実行していったかに注目して読み込んでみると、現状“分析”結果から“ロジカルシンキング”(演繹と帰納)を駆使するだけでは、カエサルが実行した打ち手には至らないことがわかると思う。そこでも、“総合”によって“戦略”を構想するプロセスが示唆されている。

スポーツでは、興味深い本の1つに、『4‐2‐3‐1―サッカーを戦術から理解する』(杉山茂樹)がある。
そこで解説されているUEFAスーパーカップで年間最優秀選手であったロナウジーニョを抑え勝利するセビージャの戦術は、『坂の上の雲』に描かれている奉天会戦において、秋山好古が世界最強と謳われたコサック騎兵を破ったものと本質的に同様であることが読み解ける。
このようにスポーツを通じても同様に“戦略”を知ることができる。

“戦略”とは、よく使われる言葉であるが、このように少し深く考えてみると“分析”から“戦略”につながらなかった、“データ”を“戦略”にうまく活用できなかったという問題の原因が理解できるのではないかと思う。

次回以降、その問題をどのように解決していくのか、“分析”から洞察や発想にどのようにつなげていくのか、どのようなプロセスで実施していくのか、“データ活用”の7つのプロセスについて説明していこうと思う。

<補足>マーケティングとは

今回は“戦略”についてまとめたが、“マーケティング”とは、について少し。
“マーケティング”とは、マーケティングリサーチのことだと思っている人も多いらしい。(私も実際に何人も出会ったことがあるが)
しかし、マーケティングリサーチは“マーケティング”の一部でしかない。[6]
なお、前述の記事で示したデータ活用の7つのプロセスで言えば、マーケティングリサーチとは主に2.情報収集であり、広義で考えても2.情報収集~5.要約のプロセスになる。

“マーケティング”は、“戦略”と同様に頻繁に使われる言葉である。
それが何を意味するのかを、しっかりと理解した上で“データ活用”に取り組んでいくことが重要になるので、あらためて確認しておきたい。

参考

[1] 国際戦略問題研究所のルトワクは、戦略に、技術レベル、戦術レベル、作戦レベル、戦域戦略、大戦略の5つのレベルを設けている[3]。本ブログでは、これら5つのレベルをすべて包め“戦略”として扱うことにする。
[2] 戦略, Wikipedia
[3] 野中郁次郎ら(2005). 『戦略の本質』, 日本経済新聞社
[4] 競争戦略論を再考する, 日経ビジネスオンライン
[5] 当記事では“センス”について説明されている。“センス”というと、「“センス”がある、ない」で片付けることが多いかもしれないが、このブログでは、その“センス”とは何なのかを明らかにしていこうという立場であり、“データ活用”を7つプロセスで紐解くことは、その一歩につながると考えている。
[6] マーケティングリサーチについて, Wikipedia

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