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統合する力・総合する力、そして発想する力【中編】 ~“データ活用”の7つのプロセス Vol.4~

 “統合・総合”を行う際の3つポイント

1. 整理しない、分類しない
2. 部分的にみない、全部としてもみない(全体としてみる)
3. 客観的に考えない、主観的にも考えない、分別よく考えない、我執にとらわれない

前編に続き、今回は「2. 部分的にみない、全部としてもみない(全体としてみる)」について。

2.部分的にみない、全部としてもみない(全体としてみる)

要素を“全部”集めても、“全体”が理解できるわけではない

全体とは、部分の総和以上のなにかである ― アリストテレス[1]

よくある方法として、モノゴトを分解・分析して、ボトルネックやクリティカルイシューとなる“部分”を特定し、その“部分”にフォーカスすることで問題解決を行うというものがあるが、それらが効果的であることは間違いない。しかし、そのように重要な“部分”に掘り下げていき、それら要素を積み上げていくアプローチだけでは限界がある。

『鋼の錬金術師』という物語の主人公、エドワード・エルリックのセリフに

「水35ℓ、炭素20㎏、アンモニア4ℓ、石灰1.5㎏、リン800g、塩分250g、硝石100g、イオウ80g、フッ素7.5g、鉄5g、ケイ素3g、その他少量の15の元素…、大人一人分として計算した場合の、人体の構成成分だ。今の科学では、ここまで判ってるのに、実際に人体練成に成功した例は報告されてない。“足りない何か”がなんなのか…、何百年も昔から、科学者達が研究を重ねてきて、それも未だに解明できていない。…ちなみにこの成分材料な、市場へ行けば、子供の小遣いでも全部買えちまうぞ。」(第1巻P.21-22)

というものがある。

このセリフを聞くと、「分析したが活用に至らない」、「エクセルに埋もれてしまっている」などの分析現場の問題を想起してしまう。物質という側面で全ての要素を集めてもヒトにはならないのと同様に、“売上”などのある側面で要素分析を突き詰めても経営・マーケティングや顧客のことがすべて理解できるわけではない。
そして、この物語には、「一は全、全は一」という言葉がある。「一“と”全、全“と”一」ではなく、「一“は”全、全“は”一」である。ビジネス実践においても「“全体”としてみる」ことが“データ活用”の“統合・総合”のプロセスでは非常に重要になる。

「“全体”としてみる」ということは、龍安寺の石庭からイメージを受けるように、“全体”の調和の中での位置づけを感じること*1で、1つ1つ部分をみて、それを積み上げていくのではなく、すべてを一気に1つとしてみるという感覚になる。

ドラマ『SPEC』に学ぶ、「“全体”としてみる」ということ

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ドラマ『SPEC~警視長公安部公安課第五課 未詳事件特別対策係事件簿~』で、刑事の当麻紗綾(戸田恵梨香)が書道をしながら推理するシーンは、「“全体”としてみる」という感覚をイメージとして上手く表現されていると思うので紹介したい。

当麻が推理するスタイルとは、まず精神を集中し、これまで得た情報を書道で書き連ねる。そして、その書をすべて破って紙吹雪のように舞い上げながら「いただきました」の決め台詞とともに最終的な結論を出す[2]。(文章では表現しきれないため、ぜひそのシーンを観てもらいたい

また、その推理内容も具体的に1つ見てみようと思うが、第7話「庚の回、覚吾知真」で特殊能力(SPEC)を持った女性サトリへの対策を導き出す場面がある。

――――――――<以下、ネタバレ>――――――――

当麻が推理する際に、サトリについて把握していた情報は、

  1. サトリは、ヒトの心を読むことができる特殊能力を持つ
  2. サトリにはこちら側の手の内がすべて読まれるので、彼女を捕まえることも、犯罪を防ぐこともできていない(これまで警察側の作戦は、すべて失敗に終わり、全く歯が立たっていない)
  3. サトリは、新宿で占い師として有名で、12時ぴったりに必ず閉店する
  4. サトリの犯罪歴は、某日午前1時ごろ足柄SA付近の路上での駐車違反のみ
  5. その他の情報としては、彼女の被害届があり、大阪発深夜バス11月2日(火)午前2時10分頃、首都高速道路追突事故にあいムチ打ちの重傷に

になる。
当麻は、このデータをもとにサトリを捕まえる対策を導き出すのだが、この情報からどう推理・発想したのかを、少し時間をとって考えてみて欲しい。

どのようなことが考えられるだろうか。
当麻が上記情報をもとに推理した結果(つまり、“統合・総合”し発想した仮説)は、「サトリは、午前0時時以降、極度に眠くなり、心を読む特殊能力を使えなくなるに違いない。」ということだった。

これは、いわゆるロジカルではない(演繹・帰納としては正しくない)。つまり、「a~eという事実があるので、サトリは午前0時以降に特殊能力を使えない」とはいえない。
しかし、「サトリが午前0時以降特殊能力を使えないという仮説が正しければ、上記a~eは当然だ」といえる。

これはまさにアブダクション*1といわれ、万学の祖とよばれるギリシャ哲学者アリストテレスにはじまり、アメリカの最も偉大な論理学者パースが再定義した方法論で、演繹、帰納に対する第3の方法である。

“アブダクション”と“KJ法”と“全体”と“超越的観点”と

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このアブダクションについては、『シャーロック・ホームズの記号論』*2, [3]が入門書としておすすめだが、この本に、

ホームズ物語において、警察がしばしばとんでもない方向に進んでしまうことは、初期捜査の段階で、二、三の目立つ事実をうまく説明できそうな仮説を選びとってしまうと、それから先は、「些細な点」になど眼をつむってしまい、都合のよくないデータには蓋をしてしまうからである。

とある。同様に、“データ活用”の現場でも、特定のデータにフォーカスしてしまい、他のいくつかの情報を捨ててしまっているため、“全体”の調和がなく、結果として恣意的な偏った思い込みとなっていることは、非常によくある問題である。
そして、そうならないために、“全部”のデータを積み上げて考えればアブダクションが上手くいくかというと、決してそうではない。

KJ法はアブダクションといわれる[4]が、そのKJ法では、「扱うすべてのラベル(データ)の集合全体は、いわばひとつの世界であり、ひとつの全体をなす宇宙なのである。その世界全体の声を聞き届けた上で……」[5]と説明されている。やはり、このように「“全体”をひとつとしてみる」ことが重要になる。

そして、「“全体”をひとつとしてみる」には、主観と客観、自己と他者を分けない超越的観点が必要になってくる*1が、この「超越的観点で“全体”をひとつとしてみる」とはどういうこと、どのようにすればいいのだろうか。

そのポイントは、“統合・総合”を行う際の3つのポイントの3つ目「客観的に考えない、主観的にも考えない、分別よくしない、我執にとらわれない」になる。

後編に続く。

<補足>
*1. 松岡正剛の千夜千冊0508夜にも本書[3]の紹介があるが、このような探偵・刑事の物語は、アブダクションの理解を深めるのに有効。今回はSPECを紹介したが、他にも“参考書”となる物語は多くあるため少し意識して鑑賞するのもおもしろい。

<参考文献>
[1] 還元主義, Wikipedia.
[2] SPECシリーズの登場人物, wikipedia.
[3] 『シャーロック・ホームズの記号論―C.S.パースとホームズの比較研究』T.A.シービオク/J.ユミカー=シービオク, 岩波書店, 1994.
[4] 『第三世代の学問―「地球学」の提唱』竹内均/上山春平, 中公新書477, 1977.
[5] 『KJ法―渾沌をして語らしめる』川喜田二郎, 中央公論社, 1986.

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