【連載:定着の壁 第4回】引き継げない、相談できない、だから辞めたくなる。属人化と孤立が“定着の壁”を厚くする理由

こんにちは。シナジーマーケティングの和田直之です。
前回は、現場の4割が業務時間の半分以上をノンコア業務に費やしており、さらに約4割がマニュアルやヘルプを見ても何らかの業務停滞を経験していることを見てきました。
表面的には小さく見える作業や停滞の積み重ねが、現場の思考時間を奪い、本来業務への集中を難しくしている、という話でした。
では、そうした負荷はなぜ一時的な問題で終わらず、組織の中で再生産されてしまうのでしょうか。
ここで大きく関わってくるのが、引き継ぎのしづらさと相談しにくさです。
全5回で扱うテーマ
全体を通して扱うテーマは、次の通りです。
- 第1話:熟練前提ではない現場で、なぜ定着設計が重要になるのか
- 第2話:業務環境が離職意向につながる構造
- 第3話:ノンコア業務と業務停滞が思考時間を奪う問題
- 第4話:引き継ぎ・孤立・支援不足が定着を阻む理由
- 第5話:現場に定着する組織は何を重視すべきか
第4話:引き継ぎ・孤立・支援不足が定着を阻む理由
マーケティングや広報の実務では、担当者が変わること自体は珍しくありません。
異動、退職、組織変更、役割見直し。
こうした変化のたびに、ツールや運用がスムーズに引き継がれるかどうかは、現場の安定性を左右します。
ところが実際には、多くの組織で、そこに少なくない摩擦があります。
引き継ぎの問題点について
今回の調査では、ツールの引き継ぎ時に困ったこととして、
「前任者も使いこなせず形骸化している」28.7%
「マニュアルが一切ない」25.7%
「目的不明な機能や設定が残っている」22.7%
が上位に並びました。

この結果から見えてくるのは、単に「引き継ぎが大変」という一般論ではありません。
もっと本質的なのは、運用の意図や構造が、担当者交代の時点で見えなくなっていることです。
前任者も完全には使いこなせていない。
マニュアルがない。
なぜその設定になっているのかがわからない。
機能は残っているが、今も使うべきものなのか判断できない。
こうした状態では、後任者はゼロからツールを理解する以上の負担を背負うことになります。
ただ覚えればよいのではなく、まず“何が起きているか”を読み解かなければいけないからです。
そして、この引き継ぎ負荷は、単なる手間の問題にとどまりません。
調査では、引き継ぎ課題がある層の離職意向は42.2%で、「特に課題なし」の6.4%と比べて大きな差が見られました。
その差は約6.6倍です。

この数字はかなり重いです。
引き継ぎがしづらいということは、単にスタートでつまずくというだけではありません。
毎日の運用の中で、
「この設定は触ってよいのか」
「この挙動は正常なのか」
「前任者は何を意図していたのか」
といった小さな不安を抱え続けることになります。
そして、その不安は判断の遅れやミスへの恐れとなり、結果として“続けにくさ”へ変わっていきます。
相談できない環境が「孤独感」を増幅させる
ここに、相談できる相手がいなければ、負荷はさらに増幅します。
今回の調査では、「社内に相談できる相手がいない孤独感」を持つ層と、そうでない層とを比較したクロス分析も行われています。
その結果、孤独感がある層は、ない層に比べて、
離職意向が48.9% vs 26.4%
ツールが難解・成果が出ない焦りが21.4% vs 10.6%
コア業務に時間を割けない不満が26.9% vs 16.4%
と、いずれも高い水準になっていました。

特に、「ツールが難解・成果が出ない焦り」が約2.0倍になっているのは印象的です。
同じツールを使っていても、相談できる相手がいるかどうかで、体感負荷は大きく変わる。
これは、機能やUIの問題だけでは説明できません。
つまり、現場負荷は“業務量”だけで決まるのではなく、支援の有無によっても変わるのです。
ここで見えてくるのは、孤立と属人化が相互に補強し合う構造です。
引き継ぎがしづらい。
運用意図が見えない。
困っても相談できない。
すると、ツールはさらに難しく感じられる。
本来業務に時間を割けない。
離職意向が高まる。
そして担当者が抜けると、また引き継ぎが難しくなる。
この循環が続けば、どれだけツールを追加しても、現場にとっては“使いこなすもの”ではなく、“抱え込むもの”になっていきます。
1年~3年の「戦力化の時期」にこそ、定着の壁は現れる
この問題は、特にこれから主戦力になっていく層に重くのしかかります。
調査では、経験年数別に見ると、業務環境が理由の離職意向が最も高かったのは1年以上~3年未満の層で67.8%でした。
1年未満の15.0%と比べると、非常に大きな差です。
まだ右も左もわからない時期よりも、むしろ少し慣れて責任が増え始めたタイミングで、環境の重さが強く意識されている可能性があります。

これは組織にとってかなり深刻です。
なぜなら、最も育成投資が効き始めるタイミングで、現場環境が壁になっている可能性があるからです。
入社直後ではなく、少しずつ戦力化してきた人ほど、属人化した運用や相談しにくい環境に直面しやすい。
その結果、「続けられるかどうか」が問われてしまう。
定着の壁とは、まさにこの構造のことです。
定着を阻むのは機能不足ではなく「孤立した運用」
第4話で押さえておきたい結論は、ここです。
定着を阻んでいるのは、機能不足よりも“孤立した運用”である。
引き継げない仕組みと相談できない環境が、離職意向を押し上げている。
属人化は、効率の問題であると同時に、定着の問題でもあります。
相談先の不在は、コミュニケーションの問題であると同時に、成果の持続性の問題でもあります。
ツールや運用の成否を考えるとき、私たちは「何ができるか」だけでなく、誰が無理なく引き継げるか、誰が困ったときに立ち止まらずに済むかを見る必要があります。
では、現場に定着する組織は、何を重視しているのでしょうか。
最終話では、ツール選定や見直しの際に、現場が本当に求めている基準を見ながら、
AIやツール活用の成果を“一過性”で終わらせず、継続運用につなげるための考え方を整理します。
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